新・司法試験基本書まとめwiki―行政法

行政法
【行政法の勉強法】
行政法は、高得点を目指せる科目である。短答試験については、過去問の勉強が基本となるが、行政法は時事的な要素の強い問題も出題され得る。櫻井先生と橋本先生が執筆された「行政法」という教科書が特にオススメである。通称サクハシであるが、両者は親密な関係にあるとの噂がある。サクハシは、二色刷りで読みやすい上に、実務で行政法を使うイメージが持ちやすく、最も優れた基本書であるといえる。行政法の短答試験では、行政訴訟法の分野は判例を記憶することを中心とし、不服申し立てや行政手続法については、条文の細かな数字なども暗記しておくべきである。行政法は、手続きに関する出題も多いので、過去問を中心に出題されやすい箇所を掴み、手続きに関する出題については類似する手続と比較した表を自分で作成する等しながら、可能な限り細かい部分まで暗記いくのが良いといえる。判例六法(所謂「有斐閣ハンロク」)もしっかりと確認していくと、本番での得点も高得点で安定してくるはずである。行政法の論文試験については、過去問の他に、事例研究行政法という本が最適である。。過去問を確認してみると、事例研究行政法(所謂事例研究行政法)に収録されている問題に似た出題がされている年もあるので漏洩ともいえる。全受験生必読である。

【基本書】
〔メジャー〕
中原茂樹『基本行政法』日本評論社(☆2015年3月・第2版)……サクハシに替わる新定番。手ごろなサイズの基本書を選ぶのであれば宇賀緑本か本書かという選択になるだろう。評価待ち。

櫻井敬子・橋本博之『行政法』弘文堂(2013年8月・第4版)……通称「サクハシ」。主要な論点について、判例・学説の現在の到達点を簡明に記述する。総じて理由付けが脱落しがちという短所もあるが、斜め読みをしてもすぐに結論にたどり着けるので、ロースクール生の間では定評がある。組織法についても一応の言及があるほか、行手法や情報公開・個人情報保護法制などについてもある程度の分量をもって触れられており、収録判例数も多いので、本書一冊で十分な択一対策が可能である。もっとも本試験の択一三科目化により行政法の択一が無くなった今となっては、本書を選択するメリットは著しく低下してしまったが、予備試験受験者にとってはなお有用である。ヴィジュアル面にも若干の工夫が凝らされており、読みやすい。ちなみに櫻井と橋本は夫婦である。2014年の行政不服審査法改正に対応した補遺あり→http://www.koubundou.co.jp/files/35567.pdf

塩野宏『行政法I・II・III』有斐閣(☆I 行政法総論: 2015年3月・第6版予定,☆II 行政救済法: 2015年3月・第6版予定,III 行政組織法: 2012年10月・第4版)……通説の地位を得つつある。試験対策としてはやや網羅性に欠ける面があるが情報量は多く考察は深い。増刷の際に改訂された百選番号に対応させたり、新判例の追加をしたりしているので発行年月日に注意。5版補訂版は誤記等の修正、重要法令の動向及び最高裁新判決の追加、行政判例百選(第6版)への対応等であり、自説の吟味や補強、新たな文献の引用は原則として行っていない。著者は元東大教授で現在は一線を退いているが、最新の判例や学説を追いかけて現在も改訂を続けており、今なお定番の基本書である。なお、IIIは行政組織法(地方自治法を含む)に加えて公務員法・公物法を扱う。田中二郎の娘婿。

宇賀克也『行政法概説I・II・III』有斐閣(I 行政法総論: 2013年9月・第5版,☆II 行政救済法: 2015年4月・第5版予定,☆III 行政組織法/公務員法/公物法: 2015年3月・第4版予定)……横組。章のはじめにポイントを摘示したり、重要度によって文字のサイズを変えたりと教科書として工夫されている。極めて情報量が多く、判例や学説の網羅性は他の追随を許さない。生きるデータベースとも呼ばれる著者らしく、判例学説の体系的なデータ整理が徹底されており、全体的にわかりやすい反面、著者の自説については結論をはっきりと示していないところもある。伝統的通説に関する記述を「塩野参照」とするところがある。塩野IIIとは異なり地方自治法については宇賀『地方自治法概説』有斐閣(☆2015年3月・第6版)にて別個扱う。

宇賀克也『行政法』有斐閣(2012年4月)……ロースクールの未修者クラスの教科書として使うために三分冊だった行政法概説を一冊にまとめたもの(なお、概説3の公務員法・公物法はカットされている)。司法試験に必要十分な知識だけが凝縮されており、分かりやすい。サクハシのパクりという意見と、サクハシの上位互換という意見とが拮抗している。理由付けに関しては、サクハシよりもしっかりしているが、無味乾燥で読みづらい面もある。予備試験の択一対策としては最適な一冊と言えるだろう。宇賀の行政法概説と区別するため、カバーの色が緑なので宇賀緑本(刑法の山口青本から)や宇賀グリーン(民法の潮見イエローから)などとも呼ばれる。

大橋洋一『行政法I・II』有斐閣(I 現代行政過程論: 2013年11月・第2版,☆II 現代行政救済論: 2015年4月・第2版予定)……行政過程論の立場の意欲的な基本書。事例(Case)における問いに解題を与えるという対話型講義のスタイルで、内容はかなり高度であるけれども読みやすいという、まさしく独習可能な体系書である。東大で太田教授が教科書指定する等、かなりの注目を集めているようである。行政法IIは多少趣きを異にし、個々の救済手段が念頭に置いている典型例を軸に解説しており、理解しやすい。


〔その他〕
芝池義一『行政法読本』有斐閣(2013年3月・第3版)……前京大教授。『行政法総論講義』『行政救済法講義』有斐閣(2006年10月・4版補訂版,2006年4月・3版)の二冊を初学者向けにコンパクトにまとめたもの。本書が出版されて以降は『講義』の二冊は改訂されておらず、また今後も改訂の予定はないとのことである。オーソドックスな入門書と言えるだろう。初学者向けという性質上、大胆に削っている論点が多いが、隙のない良書。特に異端説を採っているわけでもなく、通説・有力説にはしっかりと言及しているので、安心感がある。独自説は少なめ。芝池や塩野が採用した学説が、今日の通説になっている。芝池の独自説があるとすれば、従来の学説が論じてこなかった点を埋める箇所。たとえば、ある行政手段ではこの点が論点になるのに、従来の学説は、他の行政手段においては、そのようなことを問題としてこなかった。しかし、他の行政手段でもこのようなことは問題となるはずだ、といったふうに。あるいは、従来の学説はこの理論の長所だけを挙げてきたが、実は短所もあるから、慎重な考慮が必要になる(たとえば、形式的行政処分の拡張)など。このように、学説の間隙を埋める際には、当然独自の解釈が必要になるので、独自説を採っているが、基本的には異端説は採っていない。2014年の行政不服審査法改正に対応した補遺あり→http://www.yuhikaku.co.jp/static_files/gyouseihoudokuhon13137.pdf

原田尚彦『行政法要論』学陽書房(2012年3月・全訂第7版補訂2版)……簡にして要を得たという言葉がぴったりの基本書。公務員試験では長年シェアNo.1を維持し続けている。自説を主張している部分も少なくないが、判例・通説との区別はきちんとなされており、問題点への分析は鋭く、論旨が明快で、文章もとても分かりやすい。初学者にも推奨できる一冊である(逆に言えば、この程度の本ならば初学者も読みこなせなければならない)。判例の収録数がやや少ないため、本書のみでは司法試験対策として情報量が足りない(もっとも択一から行政法がなくなったため、今後は必要な情報量も変わるだろう)ことは否めないが、まとめ用の本としても有用である。旧司時代はまとめ本の定番ではあったが、宇賀緑本やサクハシや中原などが登場した現在では存在感がなくなりつつある。なお、今後改訂や増刷をする予定はないとのこと。

稲葉馨・人見剛・村上裕章・前田雅子 『行政法(LEGAL QUEST)』有斐閣(☆2015年3月・第3版)……試験委員らによる教科書。まとめ用の本としてシェアを伸ばしている。薄い本であるが、高度な内容まで含まれており、初学者が利用するのは難しい。

曽和俊文『行政法総論を学ぶ』有斐閣(2014年3月)……法教連載を単行本にしたもの。

神橋一彦『行政救済法』信山社(2012年2月)……著者による立教ロー・学部での講義案を書籍化したもの。2色刷で図や表が多く、読み手の理解を助ける。判例文を長く引用している。特に藤田裁判官の補足意見の引用が充実。また、取消訴訟の訴訟要件論については紙幅を割いて非常に丁寧に説明している。折に触れて総論についても軽く言及。

原田大樹『例解行政法』東京大学出版会(2013年10月)……行政法各論を中心とした基本書。著者が大橋門下ということもあってか、大橋との相性が良い。

藤田宙靖ほか『行政法総論』青林書院(2013年11月),『行政組織法』有斐閣(2005年11月)……元東北大法学部長。元最高裁判事(2010年退官)。行政法総論は行政救済法を含む。はしがきには「法学教育において重要なのは体系を呈示すること」とあり、(1)伝統的通説を紹介、(2)従来の議論の意義・有用性・各種の問題点を紹介、(3)近時の有力学説を紹介、という順序を通じて、行政法学(総論)の基礎理論とその到達点とを解説している。口を尽くした丁寧な説明を特徴とする。最高裁判事退官後の改訂により損失補償の章が新設され、最新判例もフォローされている(ただし、自身の個別意見は、自著『最高裁回想録』有斐閣(2012年4月)参照としている箇所が多い。)。今回の改訂にあたり、藤田は、本書は「今日のわが国の行政法について、その全体ないし部分の切断面をいわばCTスキャンの如く詳細に描写する先端的な著作」ではなく、「そのような成長の基盤にあったのが何であったのか、そういった成長は法理論的に如何なる意味を持つものであるのか、といったバックグラウンドを理解するための、一つの手掛かりとしての機能を果たし得るかもしれない」とし、本書はもはや「教科書」としての役割を果たす性質のものではないとされる。個別法の仕組み解釈が求められる司法試験対策に直ちに繋がる訳ではないが、行政法理論の基礎的・体系的な理解を得るための参考書としてなら今でも大変有用である。なお、藤田総論と対をなし行政組織法・行政作用法各論を扱う遠藤博也『行政法II(各論)』青林書院(1977年11月。遠藤は1992年に他界。絶版)は古いが、行政作用法各論分野の数少ない体系書であるとともに、行政庁の危険管理責任論の提唱など学説形成に大きな影響を与え続けている名著。

阿部泰隆『行政法解釈学I・II』有斐閣(2008年12月,2009年9月)……通説・塩野説を理解した人向けのAlternative体系書。著者の弁護士としての経験談が豊富に盛り込まれており実務家にとっても示唆的。

田中二郎『新版 行政法 上・中・下(法律学講座双書)』弘文堂(上:1974年4月,中:1976年6月,下:1987年2月・いずれも全訂第2版)……かつては、行政法で通説といえば、おおむね田中説を指した。現在では、本書は「古典的名著」と称され、田中説は「伝統的通説」と位置づけられる。実務上の影響力は今なお強い。元東京大学名誉教授、最高裁判所裁判官。下巻は弟子の塩野の手によって改訂。2014年にオンデマンド版で復刊。

小早川光郎『行政法上,行政法講義下I・II・III』弘文堂(1999年6月,2002年11月,2005年11月,2007年8月)……行政法学の第一人者の一人だが、本書は未完であり、上も改訂されていないためにかなり古くなっている。

高木光・櫻井敬子・常岡孝好・橋本博之『行政救済法』弘文堂(2007年11月)……逐条解説のコンメンタール調。書名にも関わらず行政手続法も掲載されている。区切りごとに判例が載っている。

南博方『行政法』有斐閣(2012年2月・第6版補訂版)……最後のまとめの一冊として。

橋本博之『要説 行政訴訟』弘文堂(2006年4月)……薄い。まとめ用に。

西埜章『国家補償法概説』勁草書房(2008年11月)……通説・判例も程よく記述されている。特にもう少し国家補償法を学ぶ人にお勧め。

司法研修所編『行政事件訴訟の一般的問題に関する実務的研究』法曹会(2000年2月・改訂版)……裁判官用行政訴訟実務マニュアル。行訴法改正に未対応。現在改訂中?

安本典夫『都市法概説』法律文化社(2013年4月・第2版)……都市法をテーマに法解説から紛争処理制度まで概観。とかく抽象的な議論に偏りがちな行政法を具体的に理解する手助けとなるだろう。


【入門書】
藤田宙靖『行政法入門』有斐閣(2013年11月・第6版)……口語体の定評ある入門書。6版では損失補償の章を書き下ろし。

曽和俊文・山田洋・亘理格『現代行政法入門』有斐閣(☆2015年4月・第3版)……

石川敏行・藤原静雄・大貫裕之・大久保規子・下井康史『はじめての行政法』(☆2015年4月・第3版補訂版)……

石川敏行『はじめて学ぶプロゼミ行政法』実務教育出版(2000年2月・改訂版)……公務員試験用ではあるが、行政法の世界への導入としては司法試験対策としても十分有用な1冊。イラストや例示で主に総論の知識を分かりやすく解説してくれる。ただし救済法の記載は少なめ。

宮田三郎『行政法の基礎知識(1)-(5)』信山社(2004年8月-2006年6月)……講師と学生の対話形式により行政法全分野を概観する入門書。


【コンメンタール】

☆宇賀克也『行政不服審査法の逐条解説』有斐閣(2015年3月)……全部改正された行政不服審査法のコンメンタール。


【判例集・ケースブック】
宇賀克也・交告尚史・山本隆司編『行政判例百選I・II』有斐閣(2012年10月,2012年11月・いずれも第6版)……収録判例数が250件超と多すぎるが、択一対策のためには一通り潰しておくことが必要なのも確か。6版は評価待ち。

橋本博之『行政判例ノート』弘文堂(2013年8月・第3版)……最高裁判例を中心におよそ200件を収録。すべての判例にその要約(多くて数行)と簡単なコメントが付いている。択一対策に最適の一冊。収録順序はサクハシに完全に準拠しているので、同書の利用者にとっては一層使いやすいだろう。一面において、初版刊行後1年後に2版(しかもその1年の間の新判例の追加は1件のみ。あとは古い判例ばかりの追加)を刊行した出版社の姿勢に疑問を呈する声あり。

芝池義一編『判例行政法入門』有斐閣(2010年3月・第5版)……事実・判旨に加えて数行のコメントが付されている。時折コラムも挿入されている。はしがきにおいては、本書の最大の特色として、「単に裁判例の事実関係と判決内容を叙述・紹介するにとどまらず、行政法の理論について若干の説明を加えた」旨述べられている。よって、本書のみでも読者は最低限の行政法理論の知識を獲得できることになる。加えて、芝池2冊本や読本と組み合わせて使えば、かなり有用だと思われるが、残念ながらクロスリファレンスはそこまで徹底されていない(読本の判例索引に本書の該当番号が引用されている程度)。

大橋洋一ほか『行政法判例集I・II』有斐閣(I 総論・組織法:2013年12月,II 救済法:2012年10月)……解説なし。事実関係を理解しやすくするため図表を用いている。原典を尊重という観点から担当裁判官名を明記している。判例収録数(見出しの判例数:I・215件、II・194件。参照判例も合わせるとI・II合計で800件超)は他を圧倒している。


山村恒年編著『実践判例行政事件訴訟法』三協法規(2008年2月)……判例を豊富に引用しているのが特徴、有益な実務書。

佐藤英善編『実務判例逐条国家賠償法』三協法規(2008年3月)……上記と同じく判例を豊富に引用しているのが特徴。

山本隆司『判例から探究する行政法』有斐閣(2012年12月)……比較的最近の最高裁判例30件の解説・評釈という形をとりながら、行政法全般にわたり、2004年行政事件訴訟法改正以降の最高裁判例の新動向を分析した著書(法学教室連載の単行本化)。関連判例も含めれば判例集なみの判例数を紹介している。内容は非常に高度で難解。著者が新たに発見した些末な論点についても詳しく説明されているので、読者にとっては情報を取捨選択してメリハリをつけて読むことが求められる。事案の分析能力は養われるだろうが、全般的に司法試験にはオーバースペック気味であることは否めない。

高橋滋・石井昇編,大久保規子・大橋真由美・友岡史仁・野口貴公美著『判例ナビゲーション 行政法』日本評論社(2014年2月)……

高木光・稲葉馨編『ケースブック行政法』弘文堂(2014年3月・第5版)……役立たずが多い弘文堂ケースブックシリーズにあって、最も出来が良いのが本書。行政法学者が総力を結集した現行のベストな教科書。百選よりも判決文が長めに記載されているほか、根拠法規を載せているので学習の便宜にも適い、また各章冒頭の判例の概観もうまくまとまっており、むしろ判例集としてかなり使い勝手がよい。収録判例数は約160件。下級審裁判例もちょくちょく混ざっている。

野村創『事例に学ぶ行政訴訟入門-紛争解決の思考と実務』民事法研究会(2011年5月)


【演習書】
曽和俊文・金子正史編『事例研究行政法』日本評論社(2011年4月・第2版)……行政法の演習書の決定版。良質の長文事例問題に丁寧な解説を付したもの。ロースクールで出題された問題を集めており、学生に誤解や間違いの多かった箇所について特に指摘をしている。

大貫裕之・土田伸也『行政法 事案解析の作法』日本評論社(☆2015年3月・第2版予定)……法学セミナーの連載を書籍化したもの。

土田伸也『基礎演習 行政法』日本評論社(2014年4月)……書名の通り基礎的な問題が扱われており、商事法務のLaw Practiceシリーズのような位置付けの演習書となっている。

石森久広『ロースクール演習 行政法』法学書院(2012年3月)……

高木光・高橋滋・人見剛『行政法事例演習教材』有斐閣(2012年4月・第2版)……

吉野夏己『紛争類型別 行政救済法』成文堂(2012年7月・第3版)……実務家教員による演習書。紛争類型別となっているので具体的紛争類型をイメージしやすい。

原田大樹『演習 行政法』東京大学出版会(2014年3月)……京大准教授を務める気鋭の若手行政法学者による演習書。初歩から応用までステップアップ形式で論文の書き方を修得できるように工夫されており、そのコンセプトと著者の意気込みこそ素晴らしいが、判例の解釈の仕方がやや強引であるように思われるなど、全体的に粗削りな印象を受ける。決定版と呼ぶにはやや物足りないか。

大島義則『行政法ガール』法律文化社(2014年7月)……

  • 最終更新:2015-10-02 20:17:04

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