新・司法試験基本書まとめwiki―経済法

経済法
平成21年改正により不公正な取引方法が大きく変化しているため、それ以降に改訂されたものを読むことが必須。

【体系書】
根岸哲・舟田正之『独占禁止法概説』有斐閣(2010年7・第4版)……大家二人による定番の一冊。白石説を取らない限り、これで経済法は充分かと思われる。やや薄いが、金井月ほか編には書かれていないことが書かれていることもあり、互いに参照しながら読むと良いと思われる。縦書き。なお、年齢的には根岸>泉水であるのにもかかわらず、試験委員になった順番は根岸より泉水のほうが先である。ちなみに、根岸教授は試験委員になられる前、所属事務所のHPで司法試験問題の解答例を示されていた(独禁法つれづれ草)。

金井貴嗣・川濵昇・泉水文雄編『独占禁止法』弘文堂(2015年3月・第5版)……司法試験受験生内で多くのシェアを誇る。不公正な取引方法はガイドラインの解説にとどまる箇所も存在する。従って、ガイドラインを見つつ読むべし。記述自体は穏当な通説に沿って書かれており、経済法選択で白石説を取らないならこれが一番おすすめ。

谷原修身『独占禁止法要論』中央経済社(2011年2月・新版第3版)

松下満雄『経済法概説』東京大学出版会(2011年6月・第5版)

村上政博『独占禁止法』弘文堂(2014年3月・第6版)

白石忠志『独占禁止法』有斐閣(2009年8月・第2版)、『独禁法講義』有斐閣(2014/04・第7版)……論旨明快であり,著者の頭の良さを随所に感じることができるが,判例ベースでの論文を書くには使いにくいか。下記「勘所」は副読本として必須。なお、「講義」は改訂の度に解説や語法の変更も多く、常に最新版を使うことを心がけたい。改訂予定などは、筆者ホームページに記載されている。なお、白石説を取るときの注意点は、体系の違いもさることながら、「市場支配”的”状態の形成・維持・強化」(白石)・「市場支配力の形成・維持・強化」(通説)などといった語法の違いである。白石説をとっているにもかかわらず、後者の言い回しを用いていると、印象が悪いので注意(減点されるか、など実際に不利益があるかは噂レベルの話しかないため、明言は避けておく。)。さらに、通説の立場を充分に理解してからこの本を読むことで、より独占禁止法の理解を深めることもできると思われ、通説の立場によって書く受験生にとっても、(時間があるのなら)読むことをおすすめする。体系書は実務家向きの手続やエンフォースメントの解説にページが割かれており、受験生には全くもって不要。白石説を理解するためには、『勘所』も必須。

泉水文雄・土佐和生・宮井雅明・林秀弥『経済法(LEGAL QUEST)』有斐閣(☆2015年4月・第2版予定)……筆者が重なる金井貴嗣・川濵昇・泉水文雄編『独占禁止法』を選ばずにこちらを選ぶ理由は特に無いと思われる。強いて言えば、章末にケースが付いていることくらいか。

岸井・向田・和田・内田・稗貫『経済法(有斐閣アルマSpecialized)』有斐閣(2015年3月・第7版補訂)……判型はアルマなので小さいが、480頁あり、内容も充実している。判例・通説および公取委の実務運用(ガイドライン)にも沿っているため、必要な知識は本書で概ね得られるだろう。改訂も比較的頻繁になされるので、法改正や重要判例にも対応している。受験対策としては試験委員が執筆陣に入っている金井=川濱=泉水がベストかもしれないが、合わない人などは本書を試してみてもよいかもしれない。

菅久修一編著『独占禁止法』商事法務(2013年2月)……元も含む、公正取引委員会の担当者による独占禁止法の概説本。通称”赤本”。公取委の担当者執筆だけあって、実際の運用などについての信頼性は極めて高い。また、事例も多く引用されている。ただし、やや文章がくどく感じられるのが難点か。また、同じ事柄を複数の箇所で説明していることも稀にある。


【入門書・概説書・論点本】
川濱・瀬領・泉水・和久井『ベーシック経済法 独占禁止法入門(有斐閣アルマBasic)』有斐閣(2014年5月・第4版)……平易に書かれ、ケーススタディを多用している。分量も適当で、読みやすい入門書。高度な内容を考える際に取っ掛かりとなる問題意識も随所にちりばめられており、体系書への橋渡しとしても有効。不公正な取引方法についての記述には定評がある。判例・通説で書かれた入門書を探しているならお勧めの一冊。

厚谷襄児『独占禁止法入門』日経文庫(2012年1月・第7版)……元公取委事務局長による平易かつ簡潔な入門書。分量も比較的少ないので、最初に読む1冊としてはお薦め。

村上政博『独占禁止法 -公正な競争のためのルール-(岩波新書)』岩波書店(2005年1月)

谷原修身『独占禁止法の解説』一橋出版(2006年3月・第6版)

鵜瀞恵子『独占禁止法実務の手引き』判例タイムズ社(2006年1月)

伊藤真『経済法 (伊藤真実務法律基礎講座6)』(2013年1月)……いわゆる予備校本ではあるが、数少ない「まとめノート」として使えそうな一冊である。もっとも、前書きを読む限り、執筆したのは最近合格した弁護士であり、内容の信頼性にはやや疑問が残るものの、各類型のガイドライン等が整理されており、必須の定義も比較的網羅されているので、不足分を自ら書き足す気力があるのであれば、直前に見返すまとめノートとして選択肢になりうるのではないか。

土田和博,栗田誠,東條吉純,武田邦宣著『条文から学ぶ独占禁止法』有斐閣(2014年10月)……


【コンメンタール】
村上政博 編集代表『条解独占禁止法』弘文堂(2014年12月)……4大法律事務所の協働による独占禁止法の逐条解説書。

藤井宣明・稲熊克紀 編著『逐条解説 平成21年改正独占禁止法』商事法務(2009年11月)……

根岸哲 編『注釈独占禁止法』有斐閣(2009年12月)……


【判例集・ケースブック】
舟田正之・金井 貴嗣・泉水 文雄・編『経済法審決・判例百選』有斐閣(2010年4月)……事案や判旨の引用に不安がある箇所が複数ある。判例集としては下ケースブックのほうがよいと思われる。同一の判例・審決例を複数の項目で扱うことがある(同一の筆者になるよう配慮されているようである)ので、見かけほど収録判例・審決例は多くない(但し、手続きに関するものなどは、1.2分の1頁に収められているものもある)。

白石忠志『独禁法事例の勘所』有斐閣(2010年4月・第2版)……筆者曰く、「一人百選」を目指したとのこと(後書き参照)。白石説を取るなら必須の一冊。なお、判旨のまとまった引用はないため、下のケースブックとの併用がおすすめ。順番は事項順ではなく、年月日順のため、通読には向いていないか(事項索引は巻末に存在する。)。

白石忠志『事例教材独禁法』商事法務(2007年10月)……白石による唯一の、そして経済法分野における数少ない演習書…かと思いきや、平成21年改正に対応していないため、やはり現在は使えない一冊。白石自身もこれに言及されることもない(ホームページの改訂予定にも記載はない)。

金井貴嗣・川濵昇・泉水文雄編『ケースブック独占禁止法』弘文堂(2013年3月・第3版)……判例百選よりも判旨の引用が多く,事実認定のトレーニングにも使用できる。また、判例集としても百選より使い勝手が良い…が、選択科目にここまで分厚い判例集が必要かと言われればやや疑問。もっとも、経済法の試験は過去の事案をそのまま引き写したかのような出題も多く、いかなる事案にいかなる条文を適用したか、ということを知っておくことは必須である(特に不公正な取引方法。また、私的独占・不当な取引制限・不公正な取引方法の複数が適用可能な事案も多く、それについて公正取引委員会がどのような当てはめをしたかを知っておくことも極めて重要である。)ため、ここまでおさえておくことが望ましいといえば望ましい。

鈴木満・鈴木深雪『経済法-判審決の争点整理』尚学社(2009年7月・第2版)……元公正取引委員会首席審判官が自分の講義の教科書として書いた本。第1部概説,第2部争点整理,第3部適用条項別主要審決一覧という構成になっている。2009年の独禁法改正を反映しての改訂。

泉水文雄・長澤哲也編『実務に効く 公正取引審決判例精選』有斐閣(2014年7月)……元試験委員と、実務家が編集した判例集。実務家が中心に執筆しており、分野毎に審決例が整理されている。もっとも、他の『精選』シリーズ同様、タイトルからも分かるように実務向けの一冊であり、司法試験には向いていないと思われる。


【演習書】
土田和博・岡田外司博編『演習ノート 経済法』法学書院(2014年10月・第2版)……数少ない演習書。法学教室に連載されていた「演習」10問とあわせて利用したい。第2版において、2009(平成21)年の排除型私的独占・優越的地位の濫用等に対する課徴金制度の導入、2013(平成25)年の審判制度の廃止という二度にわたる独占禁止法の改正を受け、また、この間、2010(平成22)年12 月のNTT 東日本事件、2012(平成24)年2月の多摩談合事件という排除型私的独占と不当な取引制限に関する基本的な最高裁判決が下されるに及んで、これらの内容を取り込んだ形で問題等の見直しが行われ,大幅な内容の改訂が施された。

川濱昇・武田邦宣・和久井理子編著『論点解析 経済法』商事法務(2014年10月)……経済法受験生待望の(?)新法対応演習書。司法試験問題を含む、長文事例を提示し、それに関わる独禁法上の問題点を回答させる形。全分野を網羅している上、今まで明確な形で十分に示されているとは言い難かった、具体的な概念の使い方・あてはめ方が示されている。ただし、解説というより、答案例に近いものが各問題6頁程度付けられているのみで、独習には向いていないとの評価も可能。その記述がどういう意味を持つか、勉強会などを開いて複数人で検討することが望ましいのではなかろうか。編著者からも分かるように、体系は金井貴嗣・川濵昇・泉水文雄編『独占禁止法』に近い。繰り返しになるが、網羅性は高いので、この一冊を潰せば独禁法について穴はなくなると思われる。

☆大久保直樹・伊永大輔・滝澤紗矢子編著『ケーススタディ経済法』有斐閣(2015年3月予定)……評価待ち。

  • 最終更新:2015-09-28 21:06:07

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