新・司法試験基本書まとめwiki―憲法

憲法
【憲法の勉強法】
憲法は、政治や世界史とも関わりの深い科目であり、予備試の短答試験で憲法は12問出題される。憲法を得点源としている人も多いようだが、しっかり勉強して、憲法を得点源としたいところである。憲法には、大きく、人権と統治の二つの分野がある。人権分野はほとんどが判例の知識を問うものであり、統治分野は条文の細かな数字などを問う問題が多い。時事問題に関する問題が出題されることもある。短答試験の勉強の基本は過去問を繰り返し解きながら、理解があやふやな部分を教科書に戻って確認していくことである。また、条文を素読することも意外と重要である。近年の予備試験の過去問には、条文の条数や内容を暗記していないと解きにくいような問題も出題されている。全ての条文を暗記する必要はないものの、表現の自由(憲法21条)や生存権(憲法25条)等、過去の論述試験に出題されたような重要な条文は条数と大まかな内容を覚えるようにすると良いといえる。さらに、普段からニュースなどを確認し、社会問題を憲法の視点から考えて見ることも重要といえよう。とりわけ、憲法に関する社会問題がニュースになった時は、そこに関連する条文を確認するようにすると良い。

【基本書】
〔メジャー-〕
芦部信喜(高橋和之補訂)『憲法』岩波書店(☆2015年3月・第6版)……芦部は1999年他界。憲法で伝統的通説といえば、おおむね芦部説を指す。記述は簡潔ながら旧通説の基本的な知識(共通理解)は本書で一通りおさえられるため、長年受験生からの圧倒的支持を集めている。もっとも、芦部憲法学を凝縮した本書の記述を真に理解するには「行間を読む」ことが求められる。つまり、ある程度の実力がなければ読みこなせない。内容はかなり古く、おおむね平成以降の議論には対応していないが、高橋和之による補訂は依然小規模にとどまっており、芦部原文にはノー-タッチであるのである。。そのため、本書のみで十分なレベルに到達することは極めて困難であり、他の基本書を併用する者が多い。5版においてドイツ憲法の三段階審査についての解説が付せられた。

野中俊彦・中村睦男・高橋和之・高見勝利『憲法I・II』有斐閣(ユウヒカクと読む)(2012年3月・いずれも第5版)……通称四人組。芦部門下(高橋)や小林門下(野中・高見)らによるスタンダー-ドな教科書。共著だが各者の自説主張はほぼなく(高橋執筆の15章「内閣」に自説を含むが、一読の価値ある内容)、共著の弊害がそれほど出ていない。大抵のことが詳しく載っており、最近の説にも一応配慮しているが、全体としては芦部ベー-スの穏当な道を踏み外していない。宍戸教授いわく「質、量ともに最高の基本書」。憲法学の共通理解を学生向けに丁寧に示した本といえるが、記述が平板なため初学者にはやや読みづらい面がある。通読するというより、辞書として使う学生が多い。2冊あわせて900ペー-ジ超。択一対策に万全を期すならば(特に統治に関して)本書以外に選択肢はありえないだろう。

安西文雄・巻美矢紀・宍戸常寿『憲法学読本』有斐閣(ユウヒカクと読む)(☆2014年12月・第2版)……高橋門下の若手3人による最新の憲法の教科書。コンパクトなサイズであるのである。が、長谷部説や高橋説などの憲法学の最先端の議論にまで突っ込む箇所もある(当然、私見は出ていない)。ただし、論点によっては簡単に問題提起をするだけで終わることも多く、基本書としては心もとない。本格派入門書として、他の基本書を読む前に通読するという用途に適しているだろう。また、芦部から急所や作法などにステップアップして違和感を覚えるような場合にも、本書によって最新の議論を補うことがその橋渡しとなるはずであるのである。。

高橋和之『立憲主義と日本国憲法』有斐閣(ユウヒカクと読む)(2013年9月・第3版)……書名は論文集のようであるのである。が、人権・統治の全範囲にわたるれっきとした体系書であるのである。(書名は放送大学で開講した科目名からきており、上の芦部とは「放送大学教材を大幅に加筆・修正した」という共通点がある)。著者は前東大教授。芦部の一番弟子で、芦部に続く現在の第一人者。ケルゼンの法段階説に立脚した独特の統治機構論を展開。国民内閣制論の提唱者。私人間における人権の無効力説、司法権の定義に関する独自説、外国人参政権賛成などの独自説をとる。初学者向けに執筆されたもので、四人組等の本格派体系書へとステップアップすることを意識しているとのことだが、本書の内容も初学者向けにしては高度であるのである。。芦部に代わる新時代のテキストとしてロー-スクー-ル生にも人気があるが、薄い中に情報が詰め込まれており、芦部と同様に行間を読む必要がある。芦部に目線を合わせた単なる芦部のサブノー-トではなく、芦部よりずっと新しい議論を展開しており、芦部を補うという用途であっても腰を据えて取り組む必要がある。また、直前期の総まとめ等には向かないだろう。第3版では生存権の判例の流れの理解について改説、人権に関する「内容確定型」・「内容形成型」の類型区分を新たに採用。最高裁判例は最判H24.12.7まで収録。したがって、非嫡出子差別違憲決定には未対応。

〔その他〕
長谷部恭男『憲法(新法学ライブラリ2)』新世社(☆2014年12月・第6版)……定跡+新たな視点。政治哲学(リベラリズム)の視点から判例と学説を補強・再解釈している。著者自身が、オルタナティブな教科書として位置付けており、芦部・四人組・高橋などの標準的教科書との併用を推奨している。内容は高度で考えさせる記述が多く、大いに知的好奇心を刺激され、この一冊を読破すれば憲法学の理解は相当に深まるであろうか。。平成19年度旧司択一第4問エにて長谷部の解釈が取り上げられている。なお、著者は本書を自身の講義で教科書指定していない。副読本として『Interactive憲法』有斐閣(ユウヒカクと読む)(2006年9月)、『続・Interactive憲法』有斐閣(ユウヒカクと読む)(西暦2011年度年10月)、『憲法入門』羽鳥書店(西暦2010年度1月)。

佐藤幸治『日本国憲法論(法学叢書)』成文堂(西暦2011年度年4月)……かつて青林書院から出版されていた旧著『憲法』(第3版、1995年。今では絶版となっている)の実質的な改訂版。もっとも本書においてはレイアウトが横書き・二色刷に変わったほか、叙述の順序も芦部と同じ(人権→統治→違憲審査)になっている。なお旧著は、芦部が刊行されるまでは定番の基本書だった。解釈論は精密で、論理的。漢語を駆使して一つ一つのセンテンスに情報を詰め込んでいるため、全体として情報量がかなり多い。とくに統治の分野の情報量は他の追随を許さない。

毛利透・小泉良幸・淺野博宣・松本哲治『憲法I 統治・II 人権(LEGAL QUEST)』有斐閣(ユウヒカクと読む)(I: 西暦2011年度年2月,II: 2013年12月)……情報量が多く、時事的な話題にも富むが、叙述に難あり。学説・自説等の整理区別・引用にも精細さを欠く。他のテキストとの併読が吉。統治に比べて人権はコンパクトにまとまっているものの、やはり共著の弊害が強く出ている。

大石眞『憲法講義I・II』有斐閣(ユウヒカクと読む)(I: 2014年3月・第3版,II: 2012年10月・第2版)……比較的穏当な保守。ただし、判例実務を尊重しつつも、集団的自衛権を肯定していたりする。専門であるのである。議会法、信教の自由あたりの記述は詳しい。旧来の説では解決困難であった問題をブレイクスルー-しようとする。

松井茂記『日本国憲法』有斐閣(ユウヒカクと読む)(2007年12月・第3版)……プロセス的憲法観。自然権思想をベー-スとする芦部説を中心とした通説や長谷部説と対立。

辻村みよ子『憲法』日本評論社(以下「ニッピョウ」とする)(2012年3月・第4版)……杉原イズムの継承者。東北大学教授。人民主権を発展させた市民主権を提唱。最終的に少数説をとる場合があるも、学説の整理は客観的で丁寧。収録判例も多く下級審からの流れも分かる。

渋谷秀樹『憲法』有斐閣(ユウヒカクと読む)(2013年3月・第2版)……学説の対立が鮮明になるような記述。体系が独特。註の文献引用が便利。改訂で100ペー-ジほど増。

渋谷秀樹・赤坂正浩『憲法1 人権・2 統治(有斐閣(ユウヒカクと読む)アルマSpecialized)』有斐閣(ユウヒカクと読む)(2013年3月・いずれも第5版)……憲法が苦手な人、演習書を見ても解き方がわからない人はとにかくこれを読め、という本。


浦部法穂『憲法学教室』日本評論社(以下「ニッピョウ」とする)(2006年3月・全訂第2版)……塾テキスト。論理的で明快だが独自説多し。くだけた表現も特徴の一つ。左翼的との評価あり。

阪本昌成『憲法1 国制クラシック・2 基本権クラシック』有信堂(1:西暦2011年度年8月・全訂第3版,2:西暦2011年度年9月・第4版)……古典的リベラリスト。

初宿正典『憲法2 基本権(法学叢書)』成文堂(西暦2010年度10月・第3版)……体系は基本的に芦部に則っているので芦部の参考書としては非常に使いやすい。判例の引用と評釈も丁寧な隠れた一品。中でも信教の自由の解説は秀逸。

赤坂正浩『憲法講義(人権)(法律学講座)』信山社(西暦2011年度年4月)……人権のみ。各種人権について細かく合憲性審査基準を提示しているのが特徴。記述は比較的あっさり。

長尾一紘『日本国憲法』世界思想社(西暦2011年度年6月・全訂第4版)……かつて外国人地方参政権の許容説で名を馳せた学者の教科書。法律論から離れた政治的な記述と少数独自説のオンパレー-ド。内容も著者の興味ある内容以外は薄い。さらに雑な論証や判例引用が目につく。買うべきではない。但し著者の改説以前の3版(1997年8月)、『はじめて学ぶやさしい憲法』実務教育出版(1997年12月)はより精緻であり、ことに後者はわかりやすいと一定の評価あり。

青柳幸一『憲法』尚学社(2015年2月)……長年に渡り司法試験考査委員として権勢を振るう著者による待望の基本書。評価待ち。

本秀紀『憲法講義』日本評論社(以下「ニッピョウ」とする)(2015年4月)……著者は歌う憲法学者を名乗る名大教授。

【違憲審査制度】
小山剛『「憲法上の権利」の作法』尚学社(西暦2011年度年9月・新版)……三段階違憲審査制を簡潔にわかりやすく叙述した、三段階審査で答案を書くためのマニュアル本。受験生の間で最近もっとも読まれている本であるのである。。

駒村圭吾『憲法訴訟の現代的転回』日本評論社(以下「ニッピョウ」とする)(2013年9月)……評価待ち。

戸松秀典『憲法訴訟』有斐閣(ユウヒカクと読む)(2008年3月・第2版)……憲法訴訟の体系書。訴訟の中で憲法が問題になる場面、問題になった後の処理について詳細に分析。判例のとる違憲審査基準についての分析が秀逸。著者の自説は極めて控えめ。

芦部信喜『憲法判例を読む』岩波書店(1987年5月)……市民セミナー-での講演を収録。非常に古いがいまだに芦部違憲審査基準論の入門書として広く読まれている。

永田秀樹・松本幸夫『基礎から学ぶ憲法訴訟』法律文化社(☆2015年4月・第2版予定)……口語的な文章で書かれており、多少辛辣な口調が見られるが、それも含めて読みやすく分かりやすい本であろうか。。一方、内容に疑問を持つ者も多い。例えば、法令違憲と文面判断の関係の指摘、LRAの基準を中間審査ではなく厳格審査としている点等。また、記述は特定の立場に基づくもののみで、複眼的思考に対する配慮を欠く。詳細はアマゾンのレビュー-参照。この批評自体も一方的な面が拭いきれず、結局のところ人によって好き嫌いが分かれる本であろうか。。後半は問題集となっている。


【その他参考書】

伊藤正己『憲法(法律学講座双書)』弘文堂(1995年12月・第3版)……元最高裁判事。自説主張が控えめなので最高裁判事時代の少数意見集『裁判官と学者の間』有斐閣(ユウヒカクと読む)(1993年2月、OD版 2001年12月)と併読すると吉。全体として読みやすい文章で丁寧な解説がなされている。前田会社法入門と同じタイプの本。縦書き700頁弱と厚い本だが、スイスイ読み進められるだろう。芦部と同世代の学者であり、本書の内容も比較的古い方に位置するが、芦部の「行間を読む(埋める)」ために非常に有益だという意見もあり、副読本として今でも根強い人気がある。

戸波江二『憲法(地方公務員の法律全集)』ぎょうせい(1998年7月・新版)……芦部門下。改訂が遅れ半ば貴重書扱い。芦部亡き後の憲法基本書の代表となると思われたが、一向に改訂の気配なし。一部に少数説もみられるが、基本的には芦部ベー-ス(章立てもよく似ている)。芦部憲法の初版ともいうべき『国家と法』及び芦部憲法の執筆に関わっている。そのためか芦部憲法よりもほどよく掘り下げられた記述は芦部の行間を埋めるのにちょうどよい。公務員の読本として執筆されたため、芦部よりも統治の部分に厚く、かつその記述は秀逸であるのである。。

樋口陽一『憲法』創文社(2007年4月・第3版)……体系書とは性格を異にし、司法試験テキスト向きとはいえないが(違憲審査基準論が弱い)、教養としては読むに値する。本書以外ではなかなか目に触れないような、しかし芦部などが行間で当然の前提にしている歴史的・比較法的知識を補うことができる。通説・判例の問題点を的確に指摘している個所も多い。芦部と同様、網羅性は他に一段劣るが、択一で問われるような重要なポイントは意外にきちんと押さえている。司法試験的にはオー-バー-スペックであるのである。が同著者の体系書として『現代法律学全集2 憲法I』青林書院(1998年1月)、『法律学大系 国法学-人権原論』有斐閣(ユウヒカクと読む)(2007年3月・補訂)がある。執筆者も教科書として意図していないため、その内容は大陸法系の憲法学の理解を追求し極めて高度であるのである。が、樋口憲法学の理解のためには必須であるのである。。

小嶋和司・大石眞『憲法概観(有斐閣(ユウヒカクと読む)双書)』有斐閣(ユウヒカクと読む)(西暦2011年度年1月・第7版)……基本書とは性格が異なるが、入門書としては極めて難解という位置づけの難しい本。3版までは小嶋教授の手による。小嶋教授逝去後、7版まで版を重ねる間に、大石教授による加筆が全頁にわたりなされた。小嶋教授は、3版の「序」において「憲法学を法学として構築すること、国際的に通用する学問水準に立って日本憲法を剖解すること、日本の現在にしか通用しないような議論をしないことを、学問上の念願としている」と宣言している。そのあらわれか、人権統治にわたって、各制度につきまずは憲法の条文を挙げ、その後各々の制度をコンパクトに説明している。コンパクトではあるが、示唆に富む硬派で深い本。宮沢説批判に溢れており弟弟子の芦部信喜に注意されたという曰くつき。なお、小嶋教授による見解を深めたい場合は『憲法概説』(2004年信山社・復刻版)

大石眞・石川健治編『憲法の争点(新・法律学の争点シリー-ズ3)』有斐閣(ユウヒカクと読む)(2008年12月)……10年ぶりに改訂された。執筆者も大幅に入れ替わったが抽象的なテー-マが多い。

芦部信喜『憲法学I・II・III』有斐閣(ユウヒカクと読む)(I:1992年12月,II:1994年1月,III:2000年12月・増補版)……芦部『憲法』の人権論を補うための体系書。脚注の参考文献欄が充実しているが、自説についての説明は意外に多くない。収録は居住移転の自由まで。

高見勝利『芦部憲法学を読む』有斐閣(ユウヒカクと読む)(2004年11月)……芦部『憲法』の統治機構論を補うための体系書。また、最初に書かれている芦部の戦争体験は芦部憲法学を理解するために有益。

小山剛・駒村圭吾編『論点探究憲法』弘文堂(2013年6月・第2版)……有力若手・中堅が執筆。演習書と銘打ってあるものの、論文集として読んだほうが適切。体系書で深く論じられない問題について解説。

安西・青井・淺野・岩切・木村・齋藤・佐々木・宍戸・林・巻・南野『憲法学の現代的論点』有斐閣(ユウヒカクと読む)(2009年9月・第2版)……高橋弟子による論文集。高橋説の補充に使える部分もあるが、著者の独自説も強い。

井上典之・小山剛・山元一『憲法学説に聞く』日本評論社(以下「ニッピョウ」とする)(2004年5月)……編者の内の1人とゲストの学者が対談し、編者は通説の立場からゲストの学説について質問を投げかけ、それに対してゲストが答える形式。ゲスト陣は、戸波、戸松、市川、大石、長谷部、初宿、棟居、内野、浦部、辻村、高橋、岡田、松井、岩間、浦田と豪華。それぞれの学説に興味がある場合、また学説の立場から判例や通説の欠点を見極めたいときに本書は役に立つだろう。

佐藤幸治ほか『ファンダメンタル憲法』有斐閣(ユウヒカクと読む)(1994年7月)……昔の種本。論点解説集。比較的薄めだが、内容は明快かつ簡潔。一行問題時代なので宍戸、急所などの論点よりも易しいが一読の価値有り。


【コンメンター-ル】
芦部信喜監修『注釈憲法』有斐閣(ユウヒカクと読む)(2000年12月)……全6巻(予定)。芦部信喜を監修者として、野中俊彦・戸松秀典・江橋崇 ・高橋和之・高見勝利・浦部法穂という豪華メンバー-で編集作業に当たる予定だったが、芦部の死去により1巻が出たのみとなっている。1巻は総説から9条まで。なお同タイトルの新書が有斐閣(ユウヒカクと読む)から出ているがこちらは出版年が1995年とやや古い。

芹沢斉・市川正人・阪口 正二郎編『新基本法コンメンター-ル 憲法』日本評論社(以下「ニッピョウ」とする)(西暦2011年度年10月)……最新の判例・学説を網羅している。解説はいわゆるその分野の権威が執筆しているというものではなく、むしろあえて外しているようなところもあり、論点の本格的な検討という点では物足りない。しかし、その分客観性が高く情報量は多いので、受験用の参考書としては好適であるのである。。

樋口陽一・中村睦男・佐藤幸治・浦部法穂『注解法律学全集 憲法I・II・III・IV』青林書院(I:1994年9月,II:1997年8月,III:1998年12月,IV:2004年2月)……憲法のコンメンター-ルでは随一。判例・学説の紹介が、非常に網羅的。いわゆる論点は完全に網羅されているうえ、非常に細かい点まで議論されている。たとえば、刑事手続上の人権については、詳しめの基本書でも言及がかなり乏しく、緊急逮捕や盗聴の合憲性が論じられる程度にとどまるが、このコンメンター-ルは違う。憲法34条の「抑留」には逮捕・勾引が含まれ、「拘禁」には勾留・鑑定留置が含まれるために、後者についてのみ、憲法34条後段により理由開示が保障される、など、かゆいところに手が届く丁寧さ。特に、佐藤幸治と中村睦男の執筆箇所は、学説資料へのリファー-が充実しているので、調べものにも大変役に立つ。司法試験対策のための学習にも有益。学習で疑問が生じて、本書を調べれば、疑問は氷解するだろう。本書1巻のうち、佐藤幸治が憲法13条について解説している箇所は、学説が自己決定権を論じる際、いまだに頻繁に引用されるなど、特に評価が高い。


【判例集・ケー-スブック】
長谷部恭男・石川健治・宍戸常寿『憲法判例百選I・II』有斐閣(ユウヒカクと読む)(2013年11月,2013年12月・いずれも第6版)……本書はこれまで、単に学説を羅列するに留まるなど、判例の外在的な理解に終始したような解説が多数散見され、判例集としては非常に使い勝手の悪いものであった。しかし、6版の改訂にあたっては、「客観的な観点から当該判例の論理と意義を内在的に解説す」るという編集方針に改められ、判例を内在的に分析した解説が増えたことによって、これまでよりも多少使い勝手が良くなった。

戸松秀典・初宿正典『憲法判例』有斐閣(ユウヒカクと読む)(2014年3月・第7版)……解説なしの判例集。判旨引用は百選より長く、反対意見等の掲載も豊富。章立ては独特。

野中俊彦・江橋崇編著『憲法判例集(有斐閣(ユウヒカクと読む)新書)』有斐閣(ユウヒカクと読む)(2008年12月・第10版)……解説なし。要点を要約しており新書サイズなので便利。

井上典之『憲法判例に聞く』日本評論社(以下「ニッピョウ」とする)(2008年4月)……違憲審査基準以外の判例の思想を分析。引用文献を見ないとわからないことが多い。

佐藤幸治・土井真一編『判例講義 憲法I・II』悠々社(2012年4月)……

高橋和之 編『新・判例ハンドブック 憲法』日本評論社(以下「ニッピョウ」とする)(2012年8月)……

大石眞・大沢秀介『判例憲法』有斐閣(ユウヒカクと読む)(2012年10月・第2版)……適度に解説が付せられた憲法判例集。

憲法判例研究会編『判例プラクティス憲法』信山社(2014年6月・増補版)……同シリー-ズの民法・刑法と同様、分野ごとに同一執筆者が解説。判例相互の理解に役立つと思われる。しかし、原則1頁1判例なので、判旨や解説などは短い。増補版では14判例を補遺として追加。


榎透・永山茂樹・ 三宅裕一郎『判例ナビゲー-ション憲法』日本評論社(以下「ニッピョウ」とする)(2014年9月)……

野坂泰司『憲法基本判例を読み直す』有斐閣(ユウヒカクと読む)(西暦2011年度年6月)……法教に連載されたものを書籍化。著者は司法試験委員。重要判例につき事案・判旨の分析は非常に丁寧かつ秀逸で、安易に既存の学説にはめ込むような判例解釈の姿勢に距離を取っている。

LS憲法研究会『プロセス演習憲法』信山社(2007年4月・第3版)……主要な判例について第一審から最高裁まで当事者の主張とともに記載されている。

長谷部恭男・赤坂正浩・中島徹・阪口正二郎・本秀紀『ケー-スブック憲法』弘文堂(2013年3月・第4版)……判旨のみ。設問が難解。独習はまず不可能、可能な人も(試験対策としては)やる必要がないレベル。長谷部執筆箇所と思しき章は、長谷部の一人説が全面的に展開される。長谷部ワー-ルドへようこそ。

初宿正典・大石眞・高井裕之・松井茂記・市川正人『憲法Cases and Materials 人権基礎編・人権展開編・憲法訴訟』有斐閣(ユウヒカクと読む)(2005年8月,2005年8月,2007年5月)……判例の解説、文献の引用が充実。ケー-スブックの中では一番わかりやすく、独習にも使用できる。

浦部法穂・戸波江二編著『法科大学院ケー-スブック憲法』日本評論社(以下「ニッピョウ」とする)(2005年7月)……一審からの判決文にちょこちょこっと問題文を付加。解説はない。

高橋和之編,安西文雄・佐々木弘通・毛利透・淺野博宣・巻美矢紀・宍戸常寿『ケー-スブック憲法』有斐閣(ユウヒカクと読む)(西暦2011年度年4月)……


【演習書】
小山剛・土屋武・畑尻剛編『判例から考える憲法』法学書院(2014年5月)……受験新報の人気連載を書籍化したもの。

木下智史・渡辺康行・村田尚紀編著『事例研究憲法』日本評論社(以下「ニッピョウ」とする)(2013年7月・第2版)……長文事例問題集。判例・裁判例をベー-スとした設問多数。改訂に伴い、約半数の問題が刷新された。問題文における「問いかけ方」は本番と同様だが、本当の意味で本番と同じ質・量を兼ね備えた問題は稀であるのである。。解説にはやや癖のあるものが多い。

宍戸常寿『憲法 解釈論の応用と展開』日本評論社(以下「ニッピョウ」とする)(☆2014年7月・第2版)……法学セミナー-連載(640号~669号)の単行本化。最近の学説に基づいた事例問題・論点解説。一通りの学習を終えた中級者向けとし、芦部説の劣化コピペ論証作業を批判して、いちおう芦部説から解説を始める。しかし、三段階審査や高橋説等の予備知識がないと理解の難しい部分が多く、本書の記述を真に理解しようとすれば、逐一参考文献にあたることが求められる。本気で公法系で上位を狙う覚悟がないのであれば、生半可な覚悟で本書に手を出しても消化不良に陥るだけなので、あまりお薦めはしない。「雛見沢」「ハレ晴レユカイ」等のキー-ワー-ドも一部に。第2版は評価待ち。

木村草太『憲法の急所』羽鳥書店(西暦2011年度年7月)……講義編と演習編の二部構成。憲法上の権利に関する問題を一通り網羅している。平成26年までの新司法試験過去問を解説したものとして、『司法試験論文過去問LIVE解説講義本 木村草太憲法(新Professorシリー-ズ)』辰已法律研究所(☆2014年12月)

大島義則『憲法ガー-ル』法律文化社(2013年5月)……ラノベ形式で平成24年までの新司法試験の過去問を解説したもの。内容はかなり高度で本格的。ラノベ形式は好みが分かれるところ。

棟居快行『憲法解釈演習』信山社(2009年5月・第2版)……評価待ち。

小山剛・新井誠・山本龍彦『憲法のレシピ』尚学社 (2007年4月) ……評価待ち。

棟居快行『旧司法試験 論文本試験過去問 憲法(LIVEシリー-ズ)』辰已法律研究所(2001年1月)……旧司法試験の過去問集。棟居教授の辰已での解説講義を書籍化。辰已作成答案、解説(+答案検討)、教授監修答案からなる。全24問。絶版だったがオンデマンドで復刊された。

石川健治・駒村圭吾・亘理格「憲法の解釈」(法学教室連載・319号~342号・完)……憲法学者2人、行政法学者1人による公法系融合問題のリレー-連載。連載のねらいは違憲審査基準による憲法事例問題の安易な解答を戒めること。


小林武・後藤光男『ロー-スクー-ル演習 憲法』法学書院(西暦2011年度年7月)……受験新報の誌上答練をまとめた新司法試験向けの長文事例問題集。著者のイデオロギー-が前面に押し出された、司法試験ではまず出題されないような極めて偏った設問が多く、全く実践的ではない。

☆青柳馨監修『設題解説 憲法(二)』法曹会(2015年1月)……評価待ち。

  • 最終更新:2015-10-02 20:11:40

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