新・司法試験基本書まとめwiki―商法(総合)

商法(総合)
【基本書】
森本滋『会社法・商行為法手形法講義』成文堂(2014年4月・ 第4版)……商法・会社法の大家である著者が、ロースクール未修者コースの講義で使用するために商法・会社法の全分野をコンパクトに一冊にまとめた、刑法における山口青本と相通ずるコンセプトの基本書(森本黄本との愛称も提案されている)。タイトルだけ読むと商法総則や小切手法が含まれていないように見えるが、実際は含まれている。第2版までは全体で400ページ以内という制限を設けて脚注を多用する記述だったが、第3版ではページ数の制限をなくして読みやすさ重視のスタイルに移行した。他の文献への参照がないなどの多少の癖があるものの、第3版以降では本文を追うだけでも一通りの内容が把握できるように配慮されている。分量は全体で430ページ程度、会社法に限ると330ページ程度と非常にコンパクトにまとまっている。ただし、その性質上当然のことではあるが、記述が薄いため、本書単独で理解することは困難であり、初学者が講義などの補助なしに本書を読み進めることは難しい。もっとも、重要な論点は網羅しているため、まとめ本としては好適であり、むしろまとめ本としてこそ本書はその真価を発揮すると言っても過言ではなかろう。2011年に初版が出たばかりであるため、普及率はまだまだ低いが、商法ではコアカリキュラムに対応した唯一の基本書と思われ、今後シェアを伸ばすことが期待される。なお、会社法のみの基本書として『会社法講義』有信堂(2001年3月)があったが、すでに改訂されていないため、会社法基本書で森本と言えば一般に本書(会社法・商行為法手形法講義)を指す。

弥永真生『リーガルマインド会社法』『同・商法総則・商行為法』『同・手形法・小切手法』有斐閣(☆2015年3月・第14版,2014年8月・第2版補訂版,2007年4月・第2版補訂2版)……旧司時代は三冊ともにおそらくトップシェアだったが、新司時代になってからは会社法は神田、商法総則・商行為法は近藤、手形法・小切手法は早川というライバルが出現し、シェアを大きく減らした。全体的にコンパクトに通説に近い見解を淡々と記述しており、良くも悪くも試験向けの本である。特に会社法は、11版から大幅リニューアルして薄くなった。冒頭に会社法の分析視座が提示されており、論点的なため旧司法試験の論文式試験向きといわれていた。12版からは旧商法に関する記述を削り、神田やリーガルクエスト並みの厚さの本にリニューアルした。この本の大きな長所の一つは、概念の定義がきちんと書かれていることである。たとえば、株主総会決議における特別利害関係のある株主とは、どのような者をいうのか。あるいは、利益相反取引における間接取引とは、どのようなものをいうのか。他の基本書で、これらの定義がきちんと書かれているものは、かなり少ない。他の基本書の多くは、いくつかの具体例を挙げるのみである。しかし、この本には、定義がしっかりと書かれている(もちろん、上掲のような抽象度の高い概念は、定義も抽象的であるが)。新司法試験では、長文の事例のなかから、一定の概念に当てはまる事実を抜き出さなければならない。そのとき、概念定義を正確に覚えていると、それにあてはまる事実を、適切に拾うことができる。しかし、概念定義を覚えておらず、典型例を覚えているのみだと、答案に事実をただ羅列し、その概念に該当する、という結論言切型の答案になってしまう。これでは、よい評価は得られない。弥永の基本書のように、概念定義が丁寧な本は、長文の事例から事実を拾い、一定の概念に当てはめなければならない、新司法試験においても、大きな威力を発揮する。

落合誠一ほか『商法I・II・III(有斐閣Sシリーズ)』有斐閣(I 総則・商行為:2013年3月・第5版,II 会社:2010年4月・第8版,III 手形・小切手:2011年10月・第4版)……東大系の教授陣によって執筆されたコンパクトな定番シリーズ。IIはさすがに薄すぎてまとめ本としての利用が主である。IとIIIは司法試験対策としては充分な情報量があるものの、その完成度には疑問の声もあり、定評ある近藤総則・商行為や早川手形・小切手を差し置いてこれらを使用する積極的な理由は見い出せない。3冊は著者が異なるものの、相互にリンクされていることから、違和感なく読むことができる。


【判例集・ケースブック】
江頭憲治郎ほか編『会社法判例百選』『商法(総則・商行為)判例百選』『手形小切手判例百選』有斐閣(2011年9月・第2版,2008年12月・第5版,2014年11月・第7版)……会社法の収録判例数は103件。旧版から実務的であり多くの文献で引用されてきたが、今回の改訂では旧商法下の判例の会社法改正後の実務の扱いを踏まえた記述がなされており、さらに参照価値が増した。

山下友信・神田秀樹編『商法判例集』有斐閣(2014年10月・第6版)……商法全分野の判例集。解説は短めだが、判旨の引用は百選よりやや長い。

弥永真生『最新重要判例200 商法』弘文堂(2010年3月・第3版)……コンパクトに会社法、商法総則・商行為、手形小切手法の判例を解説している。タイトルは200だが、第3版では222判例を収録している。同『会社法新判例50』はジュリスト連載の判例評釈を単行本化したもので新会社法下で出た重要判例を一応網羅している。

小塚荘一郎編著『ケース会社法-会社法判例・資料集』『ケース商行為法-企業取引法判例集』商事法務(2008年10、2007年4月)


【演習書】
石山卓磨『石山教授の新会社法 論文演習』辰已法律研究所 (2007年3月) ……短文の事例問題・一行問題集。初学者向け。会社法の問題33問、商法総則・商行為の問題4問。そこそこの長さがある事例問題は19問。論点の網羅性は比較的高い。参考答案は一通のみ。

  • 最終更新:2015-09-29 00:39:16

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