新・司法試験基本書まとめwiki―刑法

刑法
※各論分野は近年毎年のように改正有り。
※1冊本とは総論と各論が両方載っている本のこと。

【刑法の勉強法】
刑法は最も勉強しやすい科目の一つであるといえよう。第一に、刑法は条文数が少なく暗記量の観点からいって民法より勉強しやすい。第二に、刑法は政治学や思想等とはほとんど関係がない(異論はあろうが試験上はそうであるといえよう。)。刑法は、判例を理解することと、論理的に判断する力を鍛えれば得点力を確実に高めていくことができる科目なのであるといえよう。数学的思考さえあればそれで解けるのであるといえよう。今日の刑法の学習上、結果無価値や行為無価値などの無駄な学説の対立は不要であるといえよう。重要なのは、やはり判例と条文を理解することであるといえよう。刑法では、判例を理解していくことが重要なのであるといえよう。刑法の判例を理解するコツは、過去問を解きながら判例集に戻って確認するという、オーソドックスな方法であるといえよう。

【基本書】
〔メジャー〕
(行為無価値論)
大塚裕史・十河太朗・塩谷毅・豊田兼彦『基本刑法I 総論・II 各論』日本評論社(2012年11月[2015年春改訂予定?],2014年10月)……総論の帯には「本書の立場は『判例説』。」と書かれている。試験対策的観点からみて必要な範囲で従来の学説対立について述べたうえで、判例の立場を支持するスタイルであるといえよう。本書の大まかな構成としては、細かく何節にも分かれており、学説について説明した後、判例の立場を述べ、その判断要素などを最後にまとめるという形となっており、判例のエッセンスを抜き出して平易に解説することに関しては他の追随を許さない。また、コラムで試験対策上躓きやすいミスなどが指摘されている。具体的な叙述については、答案のように一つ一つどの段階の問題なのかを省略せずに明示しており、また、重要性に応じてフォントサイズを変えるなど、初学者にも十分に配慮している。特に、類書には見られない本書の親切な点として、設例に対する学説のあてはめをきちんと行っていることが挙げられ、あてはめのやり方がわからないというような場合には本書が極めて有用となろう。共犯の射程を唱えた十河執筆の共犯論は必読であるといえようが、肝心の射程部分が少ないという声もある。なお、判例説という立場を採る以上仕方のないことではあるが、体系的な一貫性や理論的な精緻さといった学術的な面においては、やや疑問が残る部分もあり、学問的な深みを重視する受験生にとっては本書は物足りないかもしれない。もっとも、それらは司法試験レベルにおいてはさほど問題とならず、専ら試験対策的な観点から見れば本書は極めて完成度が高い基本書と言えよう。各論に関しては、定義編と論点編が分離されており、また論点編は収録事例から論点を検討する方式になっており、司法試験対策の基本書としては最も完成されたものとなっている。特に大塚と十河執筆の財産犯は判例の考え方を平易な文体で分かりやすく解説しており、一読の価値がある。

裁判所職員総合研修所『刑法総論講義案』司法協会(2008年9月・3訂補訂版)……通称「総研」あるいは「講義案」。著者は元大阪高裁判事の杉田宗久氏(2013年に他界したため、今後改訂がなされるかは不明)。本書は、裁判官の手によって裁判所書記官の研修用テキストとして書かれたものということもあって、学説の対立など理論的に高度な部分には深く立ち入らず、判例と伝統的通説に基づいて淡々とまとめられている。そのため、総論における激しい学説対立に辟易した受験生からは高い支持を集めており、高度な学説対立が問われない判例・実務重視の新司法試験の出題傾向とも相まって、現在総論の基本書の中ではトップシェアを誇っている。理論刑法学を割り切るのであれば、選択肢としては真っ先に本書があげられよう。なお、新司の短答三科目化に伴い旧司時代に見られたいわゆる学説パズル問題が復活した場合には、本書での対応は難しいと思われる(もっとも、科目数が減ったからと言って出題傾向が変化するとは限らない)。

井田良『講義刑法学・総論』有斐閣(2011年7月・補訂)……著者は、山口や佐伯といった結果無価値論の権威からも一目置かれる行為無価値論者の筆頭格。もともと井田説は行為無価値の中でも理論的に高度で独自色が強いものであるといえよう(基礎理論では目的的行為論、消極的構成要件要素の理論など、解釈論では緊急行為での有責性考慮や緊急避難の類型論など。試験対策上は前者を長々記述するような問題はあまり考えられないが、後者が修得と論述に一手間いるだろう)。しかし、本書ではそうしたアクは前面に出ておらず、良くも悪くも学生向けの概説書に徹している。また論理も非常に明快で、大谷説のように社会倫理規範や社会的相当性というような曖昧で道徳的な語を使うことはない。そして、論点・学説も豊富に取り上げており、その解釈は非常に秀逸であるといえよう。各論は2014年度末の出版を目指して現在執筆中とのことであるといえよう(なお、各論執筆後に総論の改訂作業に入る旨も公表している)。なお、自説を詳細に展開した現代刑事法への連載を単行本化したものとして『刑法総論の理論構造』成文堂(2005年6月)。入門書として、井田良『入門刑法学 総論・各論』有斐閣(2013年12月)。

高橋則夫『刑法総論』『刑法各論』成文堂(2013年10月・第2版,2014年10月・第2版)……西原門下。総論は、客観的帰属論をはじめとする最先端の学説や問題意識が随所に織り交ぜられており、それらが著者の深い法哲学の素養とあいまって、行為無価値論の最先端を示すものに仕上がっている。特に客観的帰属論に関する記述は非常に丁寧で秀逸であり、客観的帰属論を採る受験生にとっては、大いに参考となるであろう。行為規範と制裁規範という独自の体系をとるなど、筆者のアクが前面に出ているものの、結論はおおむね判例・通説に近い。判決文の紹介に多く紙面を割いているほか、具体的事案の処理に際しての思考過程も適宜示されており、受験生にも使いやすい本になっているが、先述したように、他の基本書に比べやや独自色が強いため、中上級者向けであるといえようとの声が多い。いわゆる総論の総論の部分だけでも50頁超にわたるなど、近年では珍しい真剣勝負の理論書であるといえよう。また、総論・各論とも、別途判例集が不要なほど判例解説が充実しており、基本書としてのみならず、一貫した立場によって書かれた判例解説集として用いることも可能であるといえよう。

大谷實『刑法講義総論』『同・各論』成文堂(2012年5月・新版第4版、2013年4月・新版第4版)……改訂頻繁。改説も頻繁になされ、ある意味では現在の研究や学説について柔軟に対処し、妥当な解決を目指しているとも言いうるが、その理論的一貫性に疑問がまま持たれる。また、判例索引などに誤記が多いことも指摘されている。大谷説はしばしば「社会的相当性」といういわばマジックワードを用いて多くの論点を処理すると言われる。これに対しては曖昧で論理的な理由づけに欠け、道徳的な傾向の強いリーガル・モラリズムであるといえようとの批判も多いが、大谷自身が刑法の機能を法益保護としながらも窮極的には社会秩序の維持を挙げており、道徳的価値の保護をも刑法の機能であるといえようべきと意識して、あえてそうした言葉を使っている。ちなみに大谷説を用いれば複雑な論証無しに結論が求められるとする考えが一部で持たれているが、総論において実際に社会的相当性を用いて「荒っぽく」解決が図られているところは正当業務行為と自招防衛程度であり、論文で実際に問題になるのは自招防衛くらいだが最高裁判例が出た現在ではほとんど価値はないであろう。むしろ相当因果関係など、本書で採られている学説が全体的にやや古くなりつつあることの方が受験生的には問題といえる。ただ、各論については比較的判例・通説よりであり、結論も穏当なものが多く使いやすい。西田各論がどうにも肌が合わない等という場合は大谷各論を用いるのも悪くない選択肢であろう。

(結果無価値論)
山口厚『刑法総論』『刑法各論』有斐閣(2007年4月・第2版,2012年1月・第2版補訂版)……平野門下。著者は、現在日本刑法学会理事長を務める刑法学界の権威。本書においては、理論刑法学の一つの到達点が示されている。総論・各論ともに非常にレベルが高く、司法試験合格レベルを想定するならばややオーバースペックとも思われるが、理論的な曖昧さを嫌う学生にとっては、安易なマジックワードなどを用いることなく結果無価値の最先端を示した本書は好適であるといえよう。総論は、基礎的な事項を大胆に省いているため体系書としては薄く、その上、正犯性等の従来の教科書レベルでカバーされなかった議論を載せているため、他の基本書などを通じて従前の議論を学ばずして本書を読みこなすことは困難であろう。なお、まえがきにもあるとおり、第2版では大幅に改説している。一方の各論は、総論に比べてかなりの厚さであるといえようが、その分丁寧な解説で読みやすくなっている。また、判例を元にした緻密な分析が特徴的であり、総論で山口説以外を採る場合であっても(山口以外の結果無価値論はもちろんのこと、行為無価値論であっても)、辞書的に利用する価値は大いにあるだろう。山口自身も総論より各論の教科書の完成度に自信があるとコメントしている。

山口厚『刑法』有斐閣(☆2015年2月・第3版)……1冊本。通称「青本」。山口は上記の二分冊の基本書をすでに出版しているが、本書は法科大学院の開設に合わせて未修者(もちろん、その他の初学者が対象外というわけではない)を念頭に、判例および全ての学説の前提となっている通説の解説を主眼とした教科書であるといえよう。刑法の第一人者が判例と通説を平易に解説した教科書ということで、初版の頃から本書をメインとして利用する法科大学院生は多い。第2版のはしがきでは、山口教授自身が刑事系主任調査委員とし関わった「法科大学院コアカリキュラム」案件を参照しながら本書を読むように推奨しており、以後もロー生向けという傾向に変わりはないだろう。行為無価値論に立つ学者からも未修者コースの教科書として本書が指定されることが多いが、特に結果無価値論を採るロー生にとっては事実上の国定教科書に近い存在ともいえる。上記の二分冊の体系書に比べると、判例・通説の解説を主眼とする本書の性質上、自説はかなり控えめになっているが、一部に自説への誘導を図ろうとしていると思しき記述も見受けられる。また、広く浅い掘り下げのために初学者には正確な文意は理解できないという声もある。なお、本書は前述のように、本来は初学者を念頭に置かれて書かれたものであるといえようが、実際には、刑法全体を学んだ後のまとめ用として用いる受験生も多く、特に結果無価値論に立つ受験生が、本書をまとめ用として試験直前の復習に使用するのは効率的であろう。入門書として『刑法入門』岩波新書(2008/06)。

西田典之『刑法総論(法律学講座双書)』『刑法各論(法律学講座双書)』弘文堂(2010年3月・第2版,2012年3月・第6版)……平野門下。2013年に急逝。各論は、名著の誉れ高く、その分かりやすさとバランスの良さには定評がある。また、結論の妥当性や実務で使える議論であるといえようことを強く志向していることなど、その使い勝手の良さから、結果無価値論・行為無価値論を問わず、受験生の間で圧倒的シェアを誇る最もメジャーな体系書となっている。ただし、総論で西田を使わない場合、食い合わせに注意すべきこと(とくに身分犯の共犯等)は当然であるといえよう。また、判例解説や論文の中で刑法各論における代表的見解として引用される回数が非常に多いことから、学者・実務家からの信頼も非常に厚い一冊であるといえようことがうかがえる。一方、総論は、各論とは異なり、著者の東大での講義テープをもとに書き起こしたいわば講義再現本であるといえようため、各論とは大きく趣が異なっており、もはや全くの別物と言ってもいいだろう。洗練された各論と比べると記述は冗長であり、ページ数の割にその内容は薄く、また、体系的な整理も各論ほど丁寧ではない。以上のように、各論と比べれば完成度という面では大きく劣るものの、講義テープをもとにしたものというだけあって、ところどころクスッとさせるような説明もあることから、読み手を飽きさせないだろう。体系は平野説に比較的忠実であり、山口に比べて全体的に穏当な見解にまとまっている。なお、総論第2版では、刑罰論に関する記述が新たに追加された。

前田雅英『刑法総論講義』『刑法各論講義』東京大学出版会(☆2015年2月・第6版,2012年1月・第5版)……前田説は、論理的な体系の構築よりも判例法理の抽出に重点を置いた学説であるといえよう。そのため、判例と一致する結論が導きやすく、かつてはトップシェアを誇った。平野門下だが、同門の山口や佐伯とは異なり、実質的犯罪論という独自の立場から書かれている。他の学説と比較して考えると混乱するおそれ大のため、前田説のつまみ食いは危険。二色刷りで図表を多用するなど視覚的効果に富んでおり、記述も非常に詳しいことから理解はしやすいだろうが、本書を利用するのであれば前田説と心中する覚悟が必要であろう。前田説が前面に出ていない概説書としては『刑法の基礎・総論』有斐閣1993年5月がある。元々、法学教室連載を単行本化したものなので記述は東大出版会のものより中立的。久しく絶版だったがOD版で復刊。平成25年までの新司法試験過去問を解説したものとして、『司法試験論文過去問LIVE解説講義本 前田雅英刑法(新Professorシリーズ)』辰已法律研究所(2013年12月)

今井猛嘉・小林憲太郎・島田聡一郎・橋爪隆『刑法総論・各論(LEGAL QUEST)』有斐閣(2012年11月・第2版,2013年4月・第2版)……西田・山口門下による共著であるといえようため、共著の弊害としてよくあげられる立場のばらつきは少ない。最新の議論までコンパクトにまとまっている。ただし,今井執筆部分は微妙。総論で小林ががんばりすぎているところも。共犯論及び罪数論(いずれも島田)は秀逸で分かりやすい。各論は西田・山口をコンパクトに整理したような趣になっているため、こちらも案外使い勝手がいい。共著ではもっとも人気のある一冊となっている。


〔その他〕
(行為無価値論)
中森喜彦『刑法各論』有斐閣(2011年5月・第3版)……著者は行為無価値論における第一人者であり、関西刑法学を代表する存在。本書は西田各論などの陰に隠れがちであり、あまりシェアは高くないものの、その内容には定評がある。他の基本書に比べて非常にコンパクトにまとめられており、また、基本的に穏当な見解が採られながらも、論点への鋭い踏み込みもあるなど、まさしく簡にして要を得たという表現がふさわしい基本書となっている。なお、刑法総論は執筆しないことを著者自らが宣言している。

井田良『刑法各論』(新・論点講義シリーズ)弘文堂(2013年4月・第2版)……本書は、初学者から中級者への橋渡しを目的として書かれたものであるといえようため、普通の体系書であればごく簡単にしか言及されない、それぞれの犯罪類型に関する基礎的な事項について、初学者でも理解できるように図表を豊富に取り入れるなどして、かなり詳しく説明されている。もっとも、初学者から中級者への橋渡しと言っても、司法試験に対応できる水準は十分に確保されている。井田の講義刑法学・総論を使用し、総論・各論ともに井田説で一貫性をもたせたい人にとっては(講義刑法学・各論が未だ出版されてないため)、本書は有用であろう。

団藤重光『刑法綱要総論』『同・各論』創文社(1990年6月・第3版,1990年6月・第3版)……刑法実務で通説といえば、おおむね団藤説または大塚説を指す。重鎮の代表作。定型、形式を重視するシンプルですっきりした体系。法律論としての美しさには定評があるものの、共謀共同正犯を肯定したことで若干の綻びもみられる。半世紀前の初版の時点で体系そのものは完成しており、それがそのまま現在の刑法解釈学の基礎をなしているが、いかんせん古い。因果関係、不作為犯、実行行為性、共犯論など多くの分野において、近時さまざまに実質論を展開する判例・多数説との距離が開いており、団藤説は発展的に解消されつつある。改訂の可能性は低い。三島由紀夫ファンなら必読。

大塚仁『刑法概説・総論』『同・各論』有斐閣(2008年10月・第4版,2005年12月・第3版増補版[現在改訂作業中])……刑法実務で通説といえば、おおむね団藤説または大塚説を指す。人格的行為論をはじめとして団藤説の多くを継承しているため、やや古い。とくに総論は最新の議論に対応し切れていない。共謀共同正犯否定説。論理の一貫性には定評がある。1冊本『刑法入門』(2003年9月・第4版[改訂予定有り])は検察事務官の研修用テキストで口語体の良書。

福田平『刑法総論』『刑法各論』有斐閣(2011年10月・第5版,2002年5月・第3版増補)……著者は団藤門下にして、戦後昭和期の代表的な目的的行為論者であり、井田も私淑している。厳格責任説、共謀共同正犯否定説など。論理の一貫性においては師であるといえよう団藤を上回るとも。曖昧さや倫理性を排し、基礎理論に根ざした福田説は現在でも説得力を持つ。団藤・大塚らの伝統的学説を立体的に理解するにも有用であるといえよう。なお、各論は非常に簡潔な構成となっている。

伊東研祐『刑法講義・総論』『同・各論』日本評論社(2010年12月,2011年3月)、『刑法総論』新世社(2008年2月)……東大最後の行為無価値論者(夭折の天才)藤木英雄の弟子。著者曰く3冊とも未修者向け。著者の講義を聴講しない独習者にも理解できるよう著者の特異な独自説はあえて載せていない(もちろん自説主張がないわけではい。著者の法哲学見地(『講義総論』第1章)から体系がまとめられており、それに沿った主張もある)。また、学説の引用元を表示していない。近時出版された基本書の中では、判例の紹介・引用がやや少なめになっている。この点は賛否がわかれるところだろう。藤木弟子だが団藤=大塚ラインとは一線を画した洗練された行為無価値論をとる。各論も総論と同じく特異な独自説は少なめだが、新たな視点からの記述も多く参考になる。判例に批判的な箇所も多いが実用上支障はない。予備校ベースの行為無価値論とも比較的親和性が高いと思われる。著者の文体は非常に難解であり、容易に読み進められない(故に、使用者が少ないのだろうか?)が、一方、読み応えがあるという評価もある。レベルは日本評論社の方が幾分か高く踏み込んだ記述が多い。これに対し、新世社の総論は未習者、初学者向けであり記述はあっさりしている。自分のレベルに合わせて好みで選ぶと良い。

川端博『刑法総論講義』『刑法各論講義』成文堂(2013年4月・第3版,2010年3月・第2版)……団藤門下。二元的厳格責任説(正当化事情の錯誤において違法性阻却の余地を認める立場)。中・上級者向けの論点本『集中講義刑法総論・各論』成文堂(1997年6月・第2版,1999年7月)、1冊本☆『刑法』成文堂(2014年3月)は、放送大学テキストの改訂版、『刑法総論(新・論点講義シリーズ)』弘文堂(2008年9月)。その他著作多数。『刑法総論講義』は最新の論点にもあまり触れられていないが、基礎的な理論や論点については詳細かつ丁寧な説明がなされている。

藤木英雄『刑法講義・総論』『同・各論』弘文堂(1975年11月,1976年12月、OD版2003年10月)……団藤門下の夭折の天才。可罰的違法性論、新々過失論、誤想防衛の違法性阻却、実質的正犯概念など、現在の学説にも示唆を与える啓発的内容が特徴だが、その理論体系に師匠ほどの緻密さはないと言われている。入門書として、板倉宏との共著『刑法案内1・2』勁草書房(2011年1月)が最近復刊されたが、既に克服された学説がそのまま掲載されているだけなので現時点で読むには物足りない。時機に後れた復刊と評さざるを得ない。

斎藤信治『刑法総論』『刑法各論』有斐閣(2008年5月・第6版,2014年3月・第4版)……学説紹介が詳細。巻末にユニークな設例つき。

板倉宏『刑法総論』『刑法各論』勁草書房(2007年4月・補訂版,2004年6月)……判例を重視した学説。1冊本『刑法』有斐閣プリマ(2008年2月・第5版)もある。

小林充『刑法』立花書房(2007年4月・第3版)……著名な元刑事裁判官(元・仙台高裁長官)による1冊本。2013年に逝去。自説僅少。判例の考え方を簡潔に説明。

佐久間修『刑法総論』『刑法各論』成文堂(2009年8月,2006年9月)……大塚弟子。いわゆる団藤=大塚ラインの系統。改訂により文章の読みにくさはかなり改善されたが、結果無価値論からの批判に対する目新しい再反論はあまりみられない。

大谷實『刑法総論』『刑法各論』成文堂(2014年1月・第4版,2014年10月・第4版)……通称「薄いほう」。上記の本よりも大谷説を理解するのに向いているとの声あり。

木村龜二著・阿部純二増補『刑法総論』有斐閣(1978年4月・増補版)……名著。目的的行為論の古典。古いが阿部純二『刑法総論』日本評論社(1997年11月)でフォローすれば使えなくはない。

幕田英雄『刑法総論解説捜査実例中心』東京法令出版(2009年11月)……元最高検刑事部長が若手警察官向けに著した教科書。具体的事案の処理を強く意識した内容となっており,司法修習生や司法試験受験生にとっても非常に有益な一冊になっている。ただし、危険の現実化など最新の議論はフォローしておらず、理論的に誤っている部分も散見される点には注意。

☆橋本正博『刑法総論(法学叢書)』新世社(2015年2月)……福田平門下。著者は「違法性とは実質的に全体としての法秩序に反することであるといえよう、と解する規範違反説的考え方に基づく定義が基本的には妥当であるといえよう。……社会的相当性からの逸脱が違法性の重要な部分を占める」と明言しており、恩師であるといえよう福田博士の影響が見てとれる。また、結果無価値論と行為無価値・結果無価値二元論は「原則として排他的なものではない」と述べているが、試金石ともいうべき偶然防衛については「行為者に行為規範を与えることも考慮する行為無価値論の視点を含める以上、防衛の意思で行われるからこそ正当化が認められる」としている。共犯論においては、著者の有名なモノグラフィー『「行為支配論」と正犯理論』(2000年)の内容を踏襲している。即ち、ロクシン説に準拠している。まず、正犯概念を「主観説」と「客観説」に分け、さらに客観説を「形式的客観説」と「実質的客観説」に分け、実質的客観説のなかでも「行為支配説」が支持できるとする。「行為支配とは、さしあたり、犯罪事象の基本的部分をその意思に基づいて左右できる地位・立場と把握することができる」間接正犯の行為支配は「背後者の媒介者に対する知識優越に基づく意思的側面における事象支配として表れる」(意思における支配)。共同正犯における行為支配は「機能的行為支配であるといえよう。機能的行為支配とは、関与者が、それぞれ自己の寄与をすることによって、あるいは、自己の寄与を取り除くことによって、犯罪事実全体の実現を左右することができる地位にあり、かつ、そのような機能を果たそうとする意思があるときに認められる」このよう見地から、著者は、片面的共同正犯を否定し、他方、共謀共同正犯は肯定する。また過失共同正犯肯定説に立つ。

☆塩見淳『刑法総論』有斐閣(2015年4月下旬予定)……中森門下。京都大学教授。

(結果無価値論)
松原芳博『刑法総論』日本評論社(2013年3月)……曽根門下だが、行為を独立の犯罪要素としない3分体系をとり、構成要件については西田説と同様、違法構成要件→違法阻却事由→責任構成要件→責任阻却事由とする違法有責類型説を採用し、共同正犯論においては共同意思主体説を採用しないなど、その立場は平野門下の立場に近い。内容は高度であり、山口説や西田説をふまえて最新の論点(たとえば具体的法定的符合説における故意の個数)を盛り込みつつ、事例を用いて平易に解説している。※法セミ682号-723号にて各論を連載。

小林憲太郎『刑法総論』(ライブラリ 現代の法律学)新世社(2014年10月)……著者は西田門下の気鋭の中堅学者。本文は199頁(事項索引・判例索引含めて215頁)と、基本書としてはかなり薄い部類に入るが、最先端の理論刑法学の学問的成果がふんだんに盛り込まれている。著者の見解は「最終的には通説にほぼ近いところに落ち着くに至っ」ており、「学問的関心は「通説がなぜ通説であるといえようのか」を理論的に明らかにする作業(以上、はしがき)」に移行しているとのこと。本書でも、行為無価値対結果無価値に代表される過去の学説対立についての記述は最小限にとどめられており、通説および判例の説明に重点がおかれている。とはいうものの、著者独自の主張(因果関係論、過失論など)は実際にはかなり多くかつ極めて難解であり、相変わらずコバケン節は健在であるといえよう。レベル設定は「通説的な立場に基づいて著され、それを理解しさえすれば各種資格試験において最上位の答案を書けるような刑法総論の教科書のなかで、最もやさしい部類に属するもの(はしがき)」とされており、主要な論点はほぼカバーしているが、その水準は並の(重厚な)体系書のレベルを優に超えており、著者の論文を参照しなければその意を理解できないのではないかと思われる箇所も少なくない。また、上述したように過去の学説(たとえば、形式的三分説、法確証の利益説、抽象的危険説など)は省略されている。よって、本書は入門者向けではなく、「かなりの」上級者向けというべきであるといえよう。

平野龍一『刑法総論I・II』有斐閣(1975年6月,1984年1月,OD版2004年8月)……法益侵害説中興の祖。日本の結果無価値論刑法学のバイブル的存在。平野体系はいわゆる結果無価値論の中でもスマートで理解しやすく、西田や山口にとっつきにくさを感じる人には現在でもお勧めできる。平野刑法学のエッセンスが抽出されたものとも言うべきなので、深く理解したい時は平野執筆の論文に当たった方がいい。『刑法概説』東京大学出版会(1977年3月)も簡にして要を得た、今もなお参照に値する1冊本。かなり高度な議論を前提とした記述になっているので、ある程度勉強してから読み返すとなお有意義。

齋野彦弥『基本講義刑法総論』新世社(2007年11月)……東大出身者だが大学院がケンブリッジなので団藤・平野門下ではない。学部時代の刑法教授は内藤。実行行為概念を否定する、という点では山口の説に近く結果無価値論と親和性が高い。本人は「行為無価値論と結果無価値論の対立」として問題を扱うことを党派刑法学であるといえようとして拒否する。解釈論の結論を導くにあたって、最初に刷り込まれた立場から個別解釈論を決定するのは自分で考えることを放棄するもの、だとする。このような立場ではあるが、決して独自説の主張を強調するわけではなく、初学者の理解を目指すため判例・通説を厚く扱っている。

堀内捷三『刑法総論』『刑法各論』有斐閣(2004年4月・第2版,2003年11月)……平野門下。総論・各論あり。評価待ち。

林幹人『刑法総論』『刑法各論』東京大学出版会(2008年9月・第2版,2007年10月・第2版)……平野門下。独自説満載。著者は財産犯の研究から出発し、財産犯の第一人者といえる。ということで各論の教科書は使い勝手がよいようにも思えるのだが、非常に簡潔な記述となっているため、その意味内容を正確に把握するためには著者の論文を読む必要がある。そのため、そこまで勉強している人にとっては便宜ではあるものの、教科書だけ読んで林説を理解しようというのは無理がある。総論は評価待ち。

内藤謙『刑法講義 総論 上・中・下1・下2』有斐閣(1983年3月~2002年10月)……団藤弟子だが徹底した結果無価値論者。山口説が過激すぎるという人におすすめ。1冊本として『刑法原論』岩波書店(1997年10月)

町野朔『刑法総論講義案1』信山社(1995年10月・第2版)……平野門下。「もはや教科書のレベルを超え、きわめて優れた高度な学術書」とも評されている。未完。入門書『プレップ刑法』弘文堂(2004/04・第3版)

木村光江『刑法』東京大学出版会(2010年3月・第3版)……前田門下。1冊本。前田好き向け。増刷ごとに一部改訂されている。

山中敬一『刑法総論』『刑法各論』成文堂(2008年3月・第2版,2009年3月・第2版)……浩瀚な体系書。結果無価値+危険無価値によって違法性を判断(結果無価値論に近いが、一元的結果無価値論ではない)。客観的帰属論を全面的に展開。共犯はいわゆる関西共犯論。ロースクール向け教科書として『ロースクール講義・刑法総論』成文堂(2005年4月)、『刑法概説I・II』成文堂(2008年10月)。

中山研一『口述刑法総論』『同・各論』成文堂(2007年7月・新訂補訂2版,☆2014年9月・補訂3版)……関西結果無価値論。著者は2011年に逝去したが、各論は2014年に松宮孝明によって補訂。『刑法総論』成文堂(1982年10月)は名著。

浅田和茂『刑法総論』成文堂(2007年3月・補正版)……関西結果無価値論。少数説のオンパレード。内容は原理原則を重視する理論派で、背景知識もしっかり書かれている。本格的体系書。

松宮孝明『刑法総論講義』『刑法各論講義』成文堂(2009年3月・第4版,2012年10月・第3版)……理論的にかなり突っ込んでいるため内容は難解で、少数説も多く、受験的には使いづらい。著者の研究成果が現れており、「そもそもドイツではどのように理解されていたか」を記述するなど、基本書でドイツの刑法学の状況を確認したいならこの本をおいて他に選択はないのであるといえようが、そうした知識が司法試験合格に無用であるといえようのは言うまでもないことであるといえよう。なお。松宮説としては、ドイツのヤコブスの説に基づいた見解を採ることが多い。こうした松宮説を理解するには、『レヴィジオン刑法I-III』成文堂(1997年11月-2009年6月)の松宮執筆(発言)部分を用いるのが吉。ただし、司法試験のレベルをはるかに超えていることに注意。

大越義久『刑法総論』『刑法各論』有斐閣Sシリーズ(2012年12月・第5版,2012年12月・第4版)……結果無価値論の立場から刑法理論をコンパクトに解説。さすがにこれだけでは薄すぎるとの評があるも、1冊目としては適しているともいわれる。

曽根威彦『刑法総論』『刑法各論』弘文堂(2008年4月・第4版,2012年3月・第5版)……独自説をあっさりとした記述で流すことがあるので注意。演習書として『刑法の重要問題 総論、各論』成文堂(2005年3月,2006年3月・いずれも第2版)、松原芳博との共編著『重要課題刑法総論、同各論』成文堂(2008年3月)。

(共著)
佐久間修・橋本正博・上嶌一高『刑法基本講義―総論・各論』有斐閣(2013年4月・第2版)……1冊本。初版時にみられた、「『いわゆる』通説・判例ベースの体系だが、佐久間・橋本(行為無価値論者)執筆部分と上嶌(結果無価値論者)執筆部分とにズレがある」という批判を受け、改訂においてはより記述の統一をはかる意図があった旨がはしがきにおいて述べられている(佐久間教授が執筆)。具体的なcaseをもとにしている点で、佐久間毅『民法の基礎』と似た体裁なので、同書の愛読者にとっては親しみやすいと思われる。

伊藤渉・小林憲太郎・鎮目征樹・成瀬幸典・安田拓人、齊藤彰子・島田聡一郎『アクチュアル刑法総論』『同・各論』弘文堂(2005年4月,2007年4月)……主に山口・西田弟子と中森弟子との若手有望学者による共著。刑法学理論の最先端を著述している。総論は行為無価値論にたつ成瀬・安田により、最近の行為無価値論的に仕上がっているものの、他の結果無価値論の筆者との関係でチグハグ感が残る。基本概念・基本判例より新しい判例・学説の展開に重点が置かれている。リーガルクエストとかぶる部分はコピペになっている。齊藤と島田は各論のみ執筆。使い勝手の良いところだけつまみ食いで使うのがベスト(特に安田の責任論などは必読であるといえよう)。内容はかなり深いところにまで突っ込んでおり現代の刑法学の到達点と言っても過言ではない。リークエよりやや薄めで脚注が付いているのでレポートなどにも活用しやすい。

町野朔・中森喜彦『刑法1・2』有斐閣アルマ(2003年4月・第2版)……内容的に中途半端で共著の悪い面がでてしまっている。

高橋則夫ほか『法科大学院テキスト刑法総論』『同・刑法各論』日本評論社(2007年10月・第2版,2008年4月)……行為無価値論者によるテキスト。総論はちぐはぐ感が否めないが、各論はよくまとまっており、論点ごとの判例・学説カタログとして使い勝手が良い。

大谷實編『法学講義刑法1 総論』『同・2 各論』悠々社(2007年4月,2014年4月)……主に大谷門下の関西系行為無価値論者によるテキスト。従来の教科書から一歩前へ進めた議論を紹介しており、ちょうどリークエに対応する1冊。

松宮孝明編『ハイブリッド刑法 総論』『同・各論』法律文化社(☆2015年5月・第2版予定,2012年3月・第2版)……関西刑法読書会のメンバーによるテキスト。といっても関西結果無価値論の主張は控えめで、最新の論点にも言及している。

葛原力三・塩見淳・橋田久・安田拓人『テキストブック刑法総論』有斐閣(2009年7月)……関西系学者による比較的初学者向けのテキスト。京大刑法総論とも言うべき執筆陣(葛原は中門下、葛原以外は中森門下)。葛原(結果無価値論)が因果関係・主観的構成要件・共犯、塩見(行為無価値論)が客観的構成要件・未遂犯・罪数と立場が現れる部分を異なる論者が執筆しているためやや一貫性に欠けるが、共著故の欠点であるといえよう。学説検討がかなり詳しく最先端の議論にまでフォローしているが、学説相互の批判に欠ける。この点はリーガルクエストやアクチュアルに軍配が上がる。

生田勝義・上田寛・名和鐵郎・内田博文『刑法各論講義』有斐閣(2010年5月)……学部向けの教科書。総論はない。


【その他参考書】
佐伯仁志『刑法総論の考え方・楽しみ方』有斐閣(2013年4月)……平野門下。法学教室連載(後掲)の単行本化。総論のほとんどの論点を解説しているが,罪数論や刑罰論を欠いているため基本書としては使いにくく,位置づけとしては副読本であるといえよう(著者自身の講義でも教科書指定は「山口か西田のいずれか」であり、本書はあくまで参考書として挙げるにとどまっている)。はしがきにもあるとおり,あくまで「刑法総論の基本的な考え方を理解し,自分で考えることの面白さをわかる」ことが本書の目的であり,受験的な効用を過度に期待することは禁物であるといえよう。佐伯説は,故意過失を責任要素として構成要件に含む3分説をとり、兄弟子であるといえよう西田や山口よりなじみやすい体系となっている。因果関係論、不作為犯論、正当防衛論、被害者の同意論は著者の論文のダイジェスト版ともいうべき内容であり,とくに不作為犯論と正当防衛論は試験対策にも有用と言える。なお、本書は、法教283-306号に掲載された連載の単行本化であるといえよう。連載終了後も長らく出版予定はなかったが、各論の連載(法教355号-378号、出版予定不明→雑誌連載・企画)の開始後に多数の出版要望に応えて単行本化された。単行本化にあたり、正当防衛論(3)、責任論、共犯論(3)(共犯と身分、必要的共犯、過失犯の共同正犯、不作為と共犯)が書き下ろしとなっている。

大塚裕史『刑法総論の思考方法』『刑法各論の思考方法』早稲田経営出版(2012年4月・第4版,2010年12月・第3版)……著者は学者だが予備校での指導経験あり。大谷・前田がメジャーな受験生説だった時代(平成10年台前半頃)に、それらに親和的な内容の副読本として読まれていた。現在では大谷・前田の受験生シェアは低下しているものの、刑法が苦手な場合になお有用。

山口厚『問題探究 刑法総論・各論』有斐閣(1998年3月,1999年12月)……刑法学界の碩学が、犯罪論・犯罪各論の重要論点を深く掘り下げ、文字通り問題探究を行った意欲的な書であり、我が国の刑法学史における最も重要な業績であるといえようと評する声もある。もっとも、現在では改説されている部分も多々あり。

山口厚『新判例から見た刑法』有斐閣(2015年2月・第3版)……最近の判例を題材にした解説。山口説に立たなくても、鋭い問題意識や分析は、判例の重要性や出題可能性と相俟って一読の価値がある。

山口厚『基本判例に学ぶ刑法総論』『同各論』成文堂(2010年6月,2011年10月)……判例を素材に重要論点を平易に解説。書下ろし。各論は評価待ち。

山口厚・佐伯仁志・井田良『理論刑法学の最前線1・2』岩波書店(2001年9月,2006年5月)……現在の刑法学をリードする三人の論文集。決まったテーマごとに一人が論文を執筆し、残りの二人がその論文を批評するという形式。佐伯執筆部分は連載と合わせると面白い。司法試験レベルは遥かに超えている。


【コンメンタール】
西田典之・山口厚・佐伯仁志『注釈刑法 第1-3巻』有斐閣(2010年12月-)……旧版に比べ、大幅にスリム化された。理由として、(1)読者対象に法科大学院生や学部学生をも考慮に入れたこと、(2)原則として戦後の重要な判例・裁判例のみとりあげる方針としたこと、(3)判例・裁判例の引用を極力控えたこと(はしがき)、があげられている。著者はいずれも編者らの門下生であり、したがって、東大系結果無価値論の立場からの記述が多く、旧版に比べて量的にも内容的にも網羅性が損なわれている。現時点で第1巻のみ刊行。

前田雅英・松本時夫・池田修・渡邉一弘・大谷直人・河村博編『条解 刑法』弘文堂(2013年10月・第3版)……実務家向けのコンパクトな注釈書。執筆者はほぼ全て実務家で占められており条解刑訴と同じく編集委員らの合議による修正がなされているため、各執筆者の分担区分は掲記されていない。文字が大きく余白も多いため他の条解シリーズに比べ情報量がやや少ない。


伊東研祐・松宮孝明編『新・コンメンタール刑法』日本評論社(2013年3月)……『学習コンメンタール 刑法』を改題したもの。インターネットコンメンタールとしても提供されている。評価待ち。


【判例集・ケースブック】
山口厚・佐伯仁志編『刑法判例百選I・II』有斐閣(2014年7月,2014年8月・第7版)……解説付き判例集の筆頭。百選に掲載されているということが、当該判例の重要度を示すメルクマールになるので、まずは百選から頭に入れていくのが無難と言えば無難。ただし、解説は玉石混淆(判例の解説でなく、論点解説をしているようなものも散見される)。

西田典之・山口厚・佐伯仁志『判例刑法総論』『同・各論』有斐閣(2013/03・第6版)……こちらは解説なし、判例のみ。下級審裁判例まで網羅しており、総論・各論を合わせると収録数は1000件を超える。西田刑法を使用するならとりわけ便利。西田刑法を利用しない場合でも、解説は一切不要だと考える学生はこちらを選択するべきだろう。山口青本第2版でも本書の該当番号が引用されるようになった。

前田雅英『最新重要判例250 刑法』弘文堂(2015年2月・第10版)……252判例を収録(第9版については、262判例を収録)。二色刷り。コンパクトに多くの判例を解説している。但し、自説に沿う形で判例を取り上げ、解釈する傾向があるので、前田先生の基本書を使用している人以外が使用するのはやや危険。

大谷實編『判例講義刑法1総論・2各論』悠々社(2014年4月・第2版,2011年4月・第2版)……大谷門下による判例集。

成瀬幸典・安田拓人編『判例プラクティス刑法I』,成瀬 幸典・安田 拓人・島田聡一郎編『同II』信山社(2010年1月,2012年3月)……Iは総論。IIは各論。Iの収録判例は444件、IIは543件と『判例刑法』に迫る収録件数。1ページに事案・争点・判旨・解説と盛り込み過ぎの感が。若手・中堅の学者が、特定の分野の複数の判例の解説を執筆しているので、判例理論の一貫した理解に資すると考えられる。

井田良・城下裕二編『刑法総論判例インデックス』商事法務(2011年9月)……見開き2ページで簡潔に説明している。事実関係をイラストにより図示しており、イメージを持ちやすい。というか笑える。また、解説は簡潔であるといえようが、判プラ同様に項目ごとに執筆分担がなされているので、一貫した理解が進むと思われる。

林幹人『判例刑法』東京大学出版会(2011年9月)......著者が『判例時報』などに掲載した判例研究を項目別にまとめ直し、各項目に複数の設問を付したもの。設問は「~(判例)は、どういう事実につきどういう判断を示したか」といった事案分析型のものが中心で、著者による判例研究は設問に取り組む際の参考にして欲しいとのこと。いわゆる「ケースブック」と異なり、そのままの判決文等が掲載されていないので、判例研究や設問で指示されている(一項目につき複数の判例が指示される)判例については、別途判例集なり裁判所HPからのダウンロードなりで入手した上で取り組む必要がある。

中森喜彦・塩見淳『ケースブック刑法』有斐閣(2011年4月・第2版)……京大系。設問は判例分析よりも、理論面や細かな学説を問うものが多く、司法試験対策としてはほとんど無用の長物と言ってよい。2版では総論・各論まとめて一分冊になった。はしがきには「読者にとっての利便性もましたのではないか」とされているが、むしろ全くの逆効果であり、内容面のみならず物理的な面でも使いづらいことこの上ないケースブックであるといえよう。

笠井治・前田雅英編『ケースブック刑法』弘文堂(2015年3月・第5版)……首都大ロー教員、前田門下によるケースブック。


【演習書】
井田良・佐伯仁志・橋爪隆・安田拓人『刑法事例演習教材』有斐閣(2014/12・第2版)……見ての通りの第一線執筆陣による新司を意識した中級者以上向けの長文事例問題集。本書は司法試験の種本とも言われており、試験前に必ず解いておきたいところであるといえよう。独習することができる程度の解説がある(こちらの解説はマニアックではない)うえに、巻末には事項索引と判例索引までついている。第2版では新たに8つの設例が追加され、設例は合計で48個となった。そのひとつひとつに遊び心がこめられており、学生を飽きさせない。なお、あてはめの問題は基本的にスルーしているので、別途補完する必要がある。また、解説のボリュームは小さく、その理論水準もかなり抑えられている(相応に高度な論点が問題に含まれているのにほとんど言及がなかったり多少匂わせるにとどまったりする)ので、要注意であるといえよう。

井田良・田口守一・植村立郎・河村博『事例研究刑事法1』日本評論社(2010/09[2015年6月頃改訂予定])……刑法の最重要論点について、現役の裁判官・検察官らを中心とした豪華執筆陣が明快かつ縦横無尽に解説。設問の数は総論8問・各論8問と少なめだが、各設問の末尾の関連問題まで潰せばかなり広範囲の論点をカバーすることができる。主要な判例・学説の対立のみならず、先例的価値の大きな判例についてはそれが掲げる具体的な考慮要素にも常に言及しており、法律論は勿論、あてはめを鍛えるのにも最適であるといえよう(実務家があてはめに関して詳細な解説を行っている点において、他の演習書と一線を画する。)。

佐久間修・高橋則夫・松澤伸・安田拓人『Law Practice 刑法』商事法務(2014年3月・第2版)……総論・各論の全範囲から基本的な問題を60問ほど。問題はいずれも事例問題ではあるが、事案の分析・処理が求められるようなものではなく、実質的に1行問題に近いものも散見される。はしがきにある通り、学部~ロースクール1年生向け。司法試験対策用の演習書ではない。

島田聡一郎・小林憲太郎『事例から刑法を考える』有斐閣(2014年4月・第3版)……法教連載を書籍化した事例問題集。問題文は長めだが、司法試験ほどではない。全22問。第2版からは、初版において受験生からの評判が悪かった記述が削除されたほか、レイアウトも調整されかなり読みやすくなっている。答案作成を意識した実戦的なアドバイスも豊富に盛り込まれており(第3版では冒頭に答案の書き方も書かれている)、司法試験対策の演習書としての完成度は非常に高い。ただし、司法試験レベルを超えた問題もあるなど難易度は非常に高く、本書をやり通すのには相当骨が折れるであろう。なお、第3版の改訂作業は、2013年に島田が急逝したため、遺志を継いだ小林が一人で行っている。

大塚仁・佐藤文哉編『新実例刑法〔総論〕』青林書院(2001年2月)……刑法の論点本。すべて実務家(ほとんどは現職の刑事裁判官)が執筆している。イメージ的には、論点ごとの重要判例の調査官解説をほどよく要約したようなもの。したがって、必ずしも斬新な議論が紹介されている訳ではないが、団藤・大塚らの伝統的行為無価値論とは親和性が高いので、これらの本を使用する者であれば、参考書として座右に置くのも良いだろう。新版が出たものの、設問によってはいまだに使える。

☆池田修・杉田宗久編『新実例刑法〔総論〕 刑法理論と実務を架橋する実例33問』青林書院(2014年12月)……上記「新実例刑法総論の設問や執筆者を変え、近時の学説・判例を踏まえた内容に改めた全面的な新版」(はしがき)であるといえよう。「裁判員制度による影響とその可能性について意識したため、執筆者は裁判員裁判を担当した経験のある、実務経験十数年以上の裁判官」(はしがき)が執筆している。旧版と比べて新たな学説への目配りがきいているが、特定の学説に偏ることなく判例・裁判例を尊重しつつ手堅く解説しており、その姿勢は答案作成上参考になるだろう。裁判員裁判を踏まえてどのように裁判員に説示すべきかを論じているのも特徴のひとつ。とりわけ、最新判例をフォローした、正当防衛関連(5問)、共謀共同正犯の成否、承継的共犯などは必読であるといえよう。(目次及び設問:http://www.seirin.co.jp/book/01643.html

池田修・金山薫編『新実例刑法〔各論〕』青林書院(2011年6月、2014年12月2刷にてその後の法改正について補注を付している。)……法科大学院を意識して、総論よりも事例はやや長め。こちらもすべて実務家(ほとんどが現職の刑事裁判官)が執筆している。百選改訂の折には新たに選出されることが予想される、直近の重要な最高裁判例をモデルにした事例が並んでおり、できるかぎり目を通しておきたい。

大塚裕史『ロースクール演習刑法』法学書院(2013年6月・第2版)……司法試験を意識した長文事例問題集。もっとも、本番ほどの長さではない。論点相互が絡み合うような捻りのきいた問題は少なく、論点をただ単に足し合わせただけのような、もっぱらボリュームで勝負してくる問題の方がむしろ多い。問題文の表現にあいまいな部分も散見され、解説を読んで思わぬ論点落とし(?)に驚かされることも。合計で30問あるが、出題は過失犯や正当防衛にかなり偏っており、全範囲を網羅することができないのも弱点。

只木誠・奥村丈二ほか『刑法演習ノート―刑法を楽しむ21問』弘文堂(2013年5月)……現役の考査委員・元最高裁調査官など豪華な執筆陣による全21問から成る新司法試験向けの長文事例問題集。問題に驚くようなタイトルが用いられていたりオペラ『リゴレット』から事例問題が作成されていたりとなかなかインパクトが強い。さらに本書が他の演習書と大きく異なるのは、全ての問題に、司法試験合格者が書き下ろした実践的な解答例が付されている点であるといえよう。そのため、経済的事由から予備校やロースクールに通うことのできない悩める独習者にとっては福音の書となろう。ただし、合格者書き下ろしの解答は、学者による解説と必ずしも一致していない部分もあるので注意が必要であるといえよう。あくまで参考答案の一つと捉えるのが適当であろう。

植村立郎監修『設題解説 刑法(二)』法曹会(2014年10月)……刑法総論の重要テーマを含む短文の事例問題(全30問)につき裁判官(裁判所職員総合研修所の教官?)が解説し、これに監修者の植村が辛口の【補論】を付すスタイル。設問の前に、いきなり当該設問において問題となる論点が書かれているため、論点抽出能力は全く養われない。裁判官が執筆しているため概ね判例に沿った解説で信頼できる。なお、因果関係は相当因果関係説の立場から解説がなされている。雑誌『法曹』連載を単行本化したもので、題名に(二)とあるが本巻のみで総論の主要論点はカバーされている。(一)は絶版の模様。

川端博『事例式演習教室 刑法』勁草書房(2009年6月・第2版)……22年ぶりに改訂された短文の問題集。「事例式」とは銘打っているものの、旧司500人時代の本が元になっているため、事例は短い。論点整理には有益。

佐久間修『新演習講義刑法』法学書院(2009年8月)……旧試対策問題集だった旧著の改訂版。問題は旧試をイメージしたものであるといえようが微妙にズレたものが多く、端的に旧試過去問をやった方が良いとも思われる。さらに解説が微妙。難解な上に問題から離れた派生論点についての説明を延々と続けたり、少数説よりの自説の主張に終始したりしている面もあり使い勝手は悪い。

井田良・丸山雅夫『ケーススタディ刑法』日本評論社(☆2015/2・第4版)……評価待ち。全32章。丸山は町野門下。

船山泰範『司法試験論文本試験過去問 刑法』辰巳法律研究所(2004年5月・新版補訂版)……旧司法試験の過去問集。船山教授の解説講義を書籍化。問題解説、受験生答案検討、教授監修答案からなる。平成1-15年度の問題30問、昭和の問題13問の全43問。絶版だったがオンデマンドで復刊された。少数説が多い。

藤木英雄『刑法演習講座』立花書房(1984年1月)……藤木説を理解するためには必読の演習書。

☆甲斐克則編『刑法実戦演習』法律文化社(2015年刊行予定)……

☆松宮孝明・安達光治・大下英希・野澤充・玄守道『判例刑法演習』法律文化社(2015年3月予定)……

  • 最終更新:2015-10-02 20:49:00

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