新・司法試験基本書まとめwiki―刑事訴訟法

刑事訴訟法
刑事訴訟法
平成11(1999)年 通信傍受法成立。
平成12(2000)年 大幅改正&犯罪被害者保護法成立。
平成16(2004)年 裁判員制度、被疑者国選弁護制度他。
平成17(2005)年 即決裁判手続き他。
平成19(2007)年 被害者参加制度、損害賠償命令他。
平成22(2010)年 公訴時効改正。
平成23(2011)年 記録付差押え命令等。 

【刑事訴訟法の勉強法】
刑事訴訟法は、比較的短時間で論文答案を書くことができる科目であり、また短答試験などでも安定して点が取れるものでもあろう。刑事訴訟法は、予備試験や司法試験で出題される科目の中でも学習しやすい科目なのである。刑事訴訟法の学習は、判例百選の学習が重要になる。刑事訴訟法の短答試験や論文試験では、重要な判例において問題となっている論点が繰り返し出題されるているのである。そして、他のどんな科目と比べても、判例からの出題の比率が高い。特に刑事訴訟法については判例の学習を重視して勉強を進めていかねばならぬのである。刑事訴訟法のロンブー試験については、予備校の答練や自主ゼミ等などで実際に答案を書く練習をしておくことも必要といえよう。なぜなら、刑事訴訟法は、解答時間に比べて問題数が多く出題される傾向にあり、解くのにスピードが要求されるからである。したがって、答案を書く作業の中で、事前に答案のイメージを自分の中でつくっておくと同時に、素早く答案を作成スキルを磨かねばならぬのである。また、解答時間を短縮するためには、条文を素早く引くスキルも必要不可欠である。普段の学習の中では、六法(いわゆる「六法全書」である)を手元におき、こまめに条文を確認しながら勉強すべきであり、刑事訴訟法においても例外ではない。

【基本書】
〔メジャー〕
宇藤崇・松田岳士・堀江慎司『刑事訴訟法(LEGAL QUEST)』有斐閣(2012年12月)……京大の鈴木茂嗣門下による共著テキスト。といっても特異な見解をとっているわけではなく、判例・通説をそつなく紹介しており、判例分析はとりわけ詳しい。重要41判例の要旨を掲載しているのも特徴。各制度の理論的根拠を示しつつ、個々の要件解釈にもきちんと触れているため、全体的に完成度の高い基本書である。とりわけ、堀江執筆箇所のクオリティは非常に高い。全体の分量が増えすぎることのないように削らなければならなかった記述も少なくない(はしがき)とのことであり、情報量は詳細な体系書と有斐閣アルマの中間といったところ。捜査・公訴・証拠パートは詳しいがその他の手続の記述はそれほど厚くないのでコンメンタールや講義案を併用するとよいだろう。松尾や田宮が改訂されなくなって以降は有力学者の著書が存在しなかった刑訴の基本書にあって、本書は決定版との呼び声も高く、近時受験生の間でシェアを大きく伸ばしつつある。

田中開・寺崎嘉博・長沼範良『刑事訴訟法(有斐閣アルマSpecialized)』有斐閣(☆2015年3月・第4版予定)……定評あるスタンダードなテキスト。基本的事項と判例の説明に重点が置かれており、コンパクトに穏当な見解でまとめられている。記述が平板であることから、最初の一冊としては向かないかもしれないが、薄いながらも情報が凝縮されていることから、まとめ本としては好適である。なお、全体的に穏当な見解でまとめられた本書にあって、寺崎執筆の訴因については、独自色が非常に強く、記述もわかりづらくほとんど意味不明であるため、この部分だけは他の本で補充すべきである。有斐閣ケースブックや『演習刑事訴訟法』などの発展学習へのつながりが良い。

田口守一『刑事訴訟法』弘文堂(2012年3月・第6版)……第5版から横書き・脚注付きに変更。第3版まではコンパクトな記述が特徴だったが、現在では通常の教科書と変わらない厚さになっている。理論的な深みはなく論点の掘り下げも浅いが、無難な見解で基本事項を網羅的に解説しているという意味で(受験的)良書である。判例の引用数も多いが最新の基本書と比べると判例分析は甘い。試験頻出の論点についても記述が薄いため、本書を基本書として利用する場合は判例集や演習書での勉強が特に重要となる。旧司法試験の頃から変わらず高いシェアを誇っている。

上口裕『刑事訴訟法』成文堂(☆2015年2月・第4版)……著者は「はしがき」で司法試験受験生用の教科書として執筆したことを明言している。「迷宮」となりやすい、訴因・公訴事実の同一性・伝聞・裁判の効力等では、基礎から詳述。確実に理解する方法を示す。受験生向けに基礎から丁寧に説かれている親切な本である。田口に不満を覚える学生を中心に、一定のシェアを獲得しつつあったものの、記述の粗さや誤植、さらには判例の理解の不正確さなどの難点が指摘され、リーガルクエストの出版以降はシェアを減らしている(なお、第3版第1刷には誤植が多数あり出版社HPで正誤表が出されている)。他に『刑事訴訟法(有斐閣Sシリーズ)』(2013年3月・第5版)有斐閣、『基礎演習刑事訴訟法』有斐閣(1996年4月)。

池田修・前田雅英『刑事訴訟法講義』東京大学出版会(☆2014年12月・第5版)……最高裁調査官や高裁長官も経験した大物の元刑事裁判官と著名な刑事法学者による共著。捜査における人権侵害や冤罪の発生は,国民全体の利益を最大化するためにはやむを得ないとする独特の立場を採る。しばしば本書の見解が「実務」の見解の代表であるかのように誤解されるが、著者の法解釈は判例・実務とイコールではなく、さすがにやり過ぎの部分もあるので、読者は注意されたい。「裁判員裁判導入前」の典型的な検察官寄り裁判官と、警察の御用学者による、警察・検察寄りの著書という意識をあらかじめ持った上で読めば有用である。判例を豊富に取り上げているため初学者が手を出しやすいが、理論は精緻さに欠けており、判例の分析も独自色が強く荒っぽいため、上述したように本書で採られている見解が「判例」であると思考停止に陥って依拠してしまうのは危険である。

裁判所職員総合研修所『刑事訴訟法講義案』司法協会(2011年5月・4訂版)……通称『総研』または『講義案』。裁判官による書記官向けの本だけあって、実務寄り。条文、定義、手続を淡々と説明。証拠法には定評があるが、捜査が非常に薄く、他の本での補充が必須である。その場合には、実務寄りの本書に合わせて、幕田英雄『実例中心 捜査法解説』東京法令出版(2012年7月・3版)など、実務の立場から書かれた書籍を用いるとよいだろう。

〔その他〕
渡辺直行『刑事訴訟法』成文堂(2013年3月・第2版)……田口の弟弟子(西原門下)。最近人気が出始めている、ロースクールの実務家教員による司法試験受験生向けの教科書。田口と同門ということもあってか、田口の記述を敷衍したような内容となっており、基本事項・重要論点の解説・系統立ても田口より丁寧で、本書を一言で評するならば、田口の上位互換という表現が適当であろうか。第2版においてコアカリキュラム対応を売り文句にしている。実務にあまり重要でない学説・判例等への言及がやや薄いため、判例集・演習書を併用するのが吉。重要論点を摘出して解説したものとして『論点中心 刑事訴訟法講義』成文堂(2005年3月・2版)。

安富潔『刑事訴訟法』三省堂(2013年5月・第2版)……はしがきにあるように修習生や若手弁護士も読者として意識していることから、情報量が類書と比べ圧倒的に多く、完全に辞書向き。増刷の際に改訂頻繁。著者は他にも演習書の著書多数あり。通読向きの概説書として『刑事訴訟法講義』慶應義塾大学出版会(2014年9月・第3版)……2色刷り、図表多用。第3版の改訂に際して、各章末に「論点とまとめ」と題された予備校の論証カードのようなものが付されるなど、学者の書いた予備校本といった趣がますます強くなった。

白取祐司『刑事訴訟法』日本評論社(2012年9月・第7版)……田宮孫弟子。白取説は徹底して被疑者寄りの少数説で貫かれており、本書では実務の世界からはおよそかけ離れた独自の白取ワールドが展開されている。そのため、初学者がいきなり本書に手を出すのは避けたいところである。もっとも、判例・通説・実務の現状や原理原則をある程度踏まえた上での展開となっているため、白取説に立たなくても刑事手続について立体的に理解するには有用であり、判例・通説をあらかじめしっかりと理解したうえでなら、本書に手を出してみるのもよかろう。また、著者が少数説を採っているということもあってか、学説の紹介に詳しく、調べものなどの役には立つであろう。捜査や公判については詳細だが証拠法、ことに自白の部分が弱い。

寺崎嘉博『刑事訴訟法』成文堂(2013年7月・第3版)……白取と同門。アルマの共著者の一人。公訴事実の同一性の説明のためにアンパンマンのイラストが用いられるなど、イラストや図表が豊富に使用されていたり、また、重要な用語にはマークが付けられていたりと、視覚的な工夫が随所に散りばめられており、そのビジュアルは予備校本を思わせる。その予備校本チックな見た目から、本書は一見すると使い勝手がよさそうにも思えるが、判例や他説に対して徹底的な批判が加えられる場面が多く、自説に関しても独自色の強い異端説が多いうえに、理由づけが薄いために理解しづらいなど、初学者にとっては有害ですらあり、なまじ初学者が手を出しやすそうな雰囲気を醸し出しているだけに余計にタチが悪い。長所としては、論点・学説が豊富に取り上げられており、他の基本書においてはあまり取り上げられる事のない論点やその意義について、学生と教授という設定で、ダイアローグ演習形式によって詳しく解説している点があげられる(なお、女子学生F子の口調は非常に読みにくいものとなっている)。

福井厚『刑事訴訟法講義』法律文化社(2012年6月・第5版)……非常にわかりやく、読みやすい叙述であり、判例の正確な紹介と批判、学説の位置づけの的確さ等に定評がある。またバランスのとれた解釈なので、試験的には使いやすくはある。以下、著書多数。『刑事訴訟法』有斐閣プリマ(2012年10月・第7版)、『刑事訴訟法学入門』成文堂(2002年4月・第3版)、『刑事法学入門』法律文化社(2004年2・第2版月)『ベーシックマスター刑事訴訟法』法律文化社(2009年6月)

渡辺修『基本講義 刑事訴訟法』法律文化社(2014年9月)……評価待ち。

平良木登規男『刑事訴訟法I・II』成文堂(2009年10月,2010年11月)……元刑事裁判官。「ひららぎ」と読む。旧著『捜査法』の改訂版ではなく全面的に新しく書き下ろされた新著。著者曰く未習向けテキスト。旧著よりもページ数がグッと減ったが内容の密度は増した。ついでに文字のポイントの小ささも増した。上訴・再審なし。『捜査法』成文堂(2000年4月・第2版)……総研との組合せで用いると良いとの声あり)。

長井圓『LSノート刑事訴訟法』不磨書房(2008年10月)……レジュメ本。「判例の理論化」という志の低い帯がついている。前半はレジュメそのままであり、重要事項であっても説明が軽く流されてしまっているが、途中から説明が丁寧になり詳細な理由付けがなされていくというまこと不可思議な本である。といってもレジュメ形式で書かれていることには変わりなく、やや読みづらい。あの渥美を擁した中大系にも拘らず、採られている説は判例・実務に近い。下手な基本書よりは使える。

加藤康榮『刑事訴訟法』法学書院(2012年3月・第2版)……元最高検検事による教科書。検察よりの立場。捜査法が詳しい。

大久保隆志『刑事訴訟法(法学叢書)』新世社(2014年4月)……元検察官による体系書。評価待ち。

上口裕・後藤昭・安冨潔・渡辺修『刑事訴訟法(有斐閣Sシリーズ)』有斐閣(2013年3月・第5版)……新旧の司法試験考査委員が共同で執筆。しかし、コンパクトな本に独自説を詰めこんでしまい、受験勉強に使いやすくはない。


【入門書】
三井誠・酒巻匡『入門刑事手続法』有斐閣(2014年3月・第6版)……入門書の定番。解釈論に深入りせずに、条文に沿って粛々と制度を説明する。

緑大輔『刑事訴訟法入門』日本評論社(2012年11月)……後藤昭門下。書名に入門とあるものの、本書は刑訴法の入門書というよりもむしろ、基本書等で既に一通り基礎知識を修得した学生向けの、高度な内容まで踏み込んだ論点解説書と言った方が適当である。基礎から応用へのステップアップとして非常に有用であり、本書を読み通すことができればかなりの力がつくことは間違いない。

渡辺咲子『刑事訴訟法講義』不磨書房(2014年3月・第7版)……元検察官の著者による入門書。基本書としても使えないこともないが、メインの基本書として据えるにはやや心許ない。197条から国民の捜査協力義務を導くなどたまに独特な記述もあるが、全体としては検察実務の考え方を平易に示した好著である。口語調で非常に分かりやすい。書式が豊富。

小林充『刑事訴訟法』立花書房(2009年4月・新訂版)……元刑事裁判官。

椎橋隆幸編『ブリッジブック刑事裁判法』信山社(2007年4月)……入門書。訴因論については東大の大澤教授が担当しており、分かり易い。訴因論がどうしてもわからないという人や、アルマや田口など訴因論で特異な見解が採られている基本書を使用している人は、大澤執筆部分だけでも読むと良い。

山本正樹・渡辺修・宇藤崇・松田岳士『プリメール刑事訴訟法』法律文化社(2007年11月)

司法研修所監修『刑事第一審公判手続の概要-参考記録に基づいて』法曹会(2009年11月・平成21年版)……司法研修所の刑事裁判テキスト(白表紙)。実際の事件記録を題材に第一審の刑事訴訟手続を解説したもの。手続の流れをつかむのに最適。

総研『刑事訴訟法概説』司法協会(2011年5月・3訂補訂版)

渡辺直行『入門 刑事訴訟法』成文堂(2013年9月・第2版)……刑事手続きの全体像を鳥瞰した入門書。全体の文章が「ですます体」で表現されているだけで無く、基本的用語についてもできる限り、その定義を明らかにしてあり、初めて刑事訴訟法を学ぶ法科大学院未修者や学部学生にやさしい。


【その他参考書】
酒巻匡「論点講座・刑事手続法の諸問題(1)~(19・完)」(法学教室連載・283号~306号)……松尾門下。捜査法・訴因論の重要論点について近時の理論を学生向けに説明。「酒巻連載」(法学教室355号~394号に連載された「基礎講座・刑事手続法を学ぶ(1)~(26・完)」と区別するために「酒巻旧連載」とも呼ばれる)として受験生の間では広く知られた存在となっている。証拠法は殆どないため、本連載のみでの学習は困難。なお、教科書出版のための連載だったが、未だに出版予定はない。各回の目次など→雑誌連載・企画

松尾浩也『刑事訴訟法上・下(法律学講座双書)』弘文堂(上 1999年11月・新版,下 1999年3月・新版補正2版)……2010年までの東大の指定教科書。2冊組。著者は「精密司法」という用語の発案者であり、ここからも伺える通り、平野ほど現行刑事訴訟に絶望しておらず、また、アメリカ寄りにもなっておらず、本書の内容は日本の刑事訴訟法のありようを直視したものとなっている。実務家の視点に立った独自の章立てとなっており、当事者ごとに、ぐるぐるとらせん状に手続過程をたどっていくかたちになっている。網羅的で記述にムラがないが、その分、いわゆる重要論点も相対的に薄くなっている。文章は客観的かつ平易で極めて読みやすいが、かなり考えられて書かれているため、うかつに早く読み進めない方がよい。平成12年以降の新判例、法改正、最新のホットトピックについての記述はないが、近年孤立を深めていく田宮と違い、新判例との親和性はおおむね高い(ex.訴因変更の要否に関する最決平成13・4・11および松尾上261頁以下を見よ)。酒巻連載や『演習刑事訴訟法』との相性も抜群である。理論的にもっとも頼れる基本書は今なお本書であると言え、まだまだ現役で使える。2004年までの法・規則改正に関する補遺は弘文堂HP「訂正表・補遺」からダウンロードできる。現在改訂・合本中。

田宮裕『刑事訴訟法』有斐閣(1996年3月・新版)……制度社会学的な観点から刑事法システム全体に目配りしつつ、原理原則に立ち返る明快かつわかりやすい記述が特徴。特に伝聞法則の基礎理論の解説に定評がある。田宮説といえば、アメリカ判例法に強い影響を受けた適正手続主義が特徴だが、本書では教科書という特性からわが国の判例の解説を重視しており、結論の落とし所も必ずしも実務からかい離している訳ではない。1998年12月までの動向が補訂され増刷されたものの著者は1999年1月に他界し、それ以後の新判例、法改正、論点については記述がなく、近時、急速な判例・立法の進展により、古典としての性格を強めつつある。もっとも、2009年度新司1位合格者もアルマ刑訴の副読本として利用しているなど、根強い人気があるのも確かである。

團藤重光『新刑事訴訟法綱要』創文社(1967年・7訂版)……現行法の立案者による重厚な体系書。戦後の現行法施行直後に出版された初版は実務家に広く受け容れられるところとなり、ほどなく学界が平野・全集を起点として再出発、発展していく一方で、実務では今なお團藤説(権力分立・適正手続保障を基礎にしつつも、捜査を除き裁判所職権主義構造論+審判の対象として訴因に公訴事実を折衷的に加える折衷説)が随所で多大な影響力を残していると言われる。刑訴法における團藤説そのものは、刑法における團藤説と異なりもはや学界で支持されることは殆どないが、平野説と並び、殆どの文献における記述の下敷きになっている。現行法に関する最重要文献であることに間違いはない、名著。

平野龍一『刑事訴訟法』有斐閣(1958年12月)……有斐閣法律学全集の中でも三ケ月・民訴と並び有名であり、かつ人気のある一冊。きわめてアメリカ寄りの体系に立って團藤・上掲書(とくに職権主義構造論と折衷説)を徹底的に批判し、学界で圧倒的な支持を得た結果、戦後の刑事訴訟法「学」の出発点となった。團藤・上掲書と並び称される名著である。訴因論などは今でも一読の価値があるだろう。なお、著者が学部生向けの教科書として執筆した『刑事訴訟法概説』(東京大学出版会、1968年)もあるが、平野説に触れたい場合にはより詳細な全集を読むべきであろう。

渥美東洋『刑事訴訟法』有斐閣(2009年4月・全訂第2版)…反実務説,反多数説を求めるならば渥美説は避けて通れない。憲法を基礎にした体系を構築。独自の体系、用語法、そして拙劣な日本語により,司法試験の基本書にはまったく向かない。したがって、読むならば司法試験合格後ということになろうが、上記のとおり反実務,反通説を貫く本書を修習中に読破することの意義もまた見出し難い。もっとも、渥美説そのものはなかなか面白いので、純然たる趣味と割り切ってその晦渋な文章と付き合うならば、良き思い出ともなろう。

光藤景皎『刑事訴訟法I・II』『口述刑事訴訟法下』(2007年5月,2013年7月,2005年11月)……名前の読みは「みつどう・かげあき」。「口述刑事訴訟法」として上・中・下3冊組であったが、上・中は「刑事訴訟法I、II」として改訂。下(上訴・再審)の改訂は今のところ未定。旧試時代から証拠法分野には定評がある。IIの証拠法パートではアメリカ証拠法の判例・学説を多数引用しており非常に参考になる。自説は基本的に人権尊重であるが判例の分析はきちんとしており役に立つ。

土本武司『刑事訴訟法要義』有斐閣(1991年4月)……元最高検検事。検察よりの実務刑訴。論点落ちあり。

三井誠『刑事手続法(1)・2・3・(4未刊)』有斐閣(1997年6月・新版,2003年7月,2004年5月)……法学教室での連載をまとめたもの。連載としては完結している。

平野龍一・鬼塚賢太郎・森岡茂・松尾浩也『刑事訴訟法教材』東大出版会(1977年9月)……小説立ての教科書。平野龍一がハーバード留学の折りにあちらの証拠法の教科書を見て思いついた一冊。刑事訴訟の権威、最高裁調査官経験者が執筆者として名を連ねているが、弁護士、警察官等刑事訴訟に関係する役職全てが目を通しているため非常にリアルなプロセスを体験できる。書式も全て挿入されている。脚注には問題も設定されており演習本としての機能も備えている。そもそも読み物としても面白い。出版されてから大分経つが今なお亀井源太郎教授等が参考書として挙げている。

「刑訴三昧」……井上正仁教授の東大での講義が(無断)録音され講義録として出回った物。400頁に及び、刑訴全体が網羅されている。稀にインターネット上にアップロードされるのを見かけるが、今となっては内容はさすがに古い。ちなみにこれを作成した当時の学生は、現在裁判官をつとめている。

井上正仁『強制捜査と任意捜査』有斐閣(2014年12月・新版)……刑訴法の大家である井上による論文集。捜査法における最重要文献の一つであり、百選の解説にも度々本書が引用されている。新版の改訂にあたっては、新たに3つの論文が追加され、既収録の論文についても、判例や文献がアップデートされるなど手が加えられた。捜査分野に於ける諸論点を重要判例とともに詳細に解説しており、また、収録されている論文には争点や法教に掲載されたものも含まれていることから、研究用途としてのみならず、学習用途としても大いに得るところはあるだろう。法教413号の書評でも「しっかり刑事訴訟法を学ぶには最適の教材」と評されており、時間に余裕がある学生は、本書に手を出してみるのもよかろう。

小木曽綾『条文で学ぶ刑事訴訟法』法学書院(2015年1月)……評価待ち。

(実務関連書)
石丸俊彦・仙波厚ほか『刑事訴訟の実務上下』新日本法規(2011年3月・3訂版)……裁判官の共著による実務家向けの刑事訴訟法の体系書。刑事訴訟手続部分だけでも、上巻726頁+下巻680頁の大著(本文)。学説については必要最小限の解説しかないが、その分実務の運用や判例の引用が多い(少数意見まで収録している)のが本書の特徴である。書式例の掲載も豊富であり実務のイメージを掴むのに便利である。学説を知らない初学者には向かないが、学説対立に辟易した上級者にならば本書は有用だろう。

三井誠編『新刑事手続I・II・III』悠々社(2002年6月)……1つの論点を判事・検事・弁護士の3つの立場から論じており、実務家の考え方を知ることができる。

新関雅夫・佐々木史朗ほか『増補令状基本問題上下』判例時報社(2002年9月、原著1996年6月,1997年2月)……捜査法の実務的な論点について一行問題・簡単な事例問題の形式で実務家が解説。一粒社倒産のため判例時報社が引き継いだ。

高麗邦彦・芦澤政治編『令状に関する理論と実務I,II(別冊判例タイムズ34,35号)』判例タイムズ社(2012年8月,2013年1月)……令状関連実務について実務家が解説。全2冊。I・・総論、逮捕・勾留。II・・保釈・鑑定留置等・勾引・捜索・差押え・検証等・準抗告・抗告。

石井一正『刑事実務証拠法』判例タイムズ社(2011年11月・第5版)……元裁判官。証拠法分野では他の追随を許さない。実務家必携。もっとも,記述があまりにも実務的かつ各論的すぎるので,大方の司法試験受験生にとっては読みこなせる代物ではなく,本書を玩味して理解を深めることのできる者は既に合格水準を超えているという,なかなか使いどころの難しい本である。

大阪刑事実務研究会『刑事公判の諸問題』判例タイムズ社(1989年8月)、『刑事実務上の諸問題』(1993年12月)、『刑事証拠法の諸問題上下』(2001年4月)……関西の刑事裁判官による論文集。『刑事証拠法の諸問題上』所収の三好論文は、伝聞法則を理解するのに有用。

司法研修所検察教官室編『検察講義案』法曹会(2013年4月・平成24年版)…司研テキスト(白表紙)。「隠れた名著」とも言われるが,本書はあくまで司法試験に合格した者に対して「実務的」な知識を習得させることを目的とした書籍であり,全体として,試験範囲とのちぐはぐ感は否めない。司法試験と重複する箇所につき参考書として利用することは勿論可能であるが,いわゆる基本書としての使用は難しいと思われる。「司法研修所」という言葉や「検察実務」という雰囲気に変な期待を持つべきではない。予備試験の刑事実務科目や口述対策に役立つとの評価もある。

渡辺咲子『任意捜査の限界101問』立花書房(2013年8月・5訂)、☆廣上克洋編『令状請求ハンドブック』立花書房(2014年6月)……実務家(捜査官)向けの捜査法のQ&A集。任意捜査と強制捜査の実際を知るために。令状請求ハンドブックは、『令状請求の実際101問』の改訂版。


【コンメンタール】
松尾浩也監修『条解刑事訴訟法』弘文堂(2009年12月・第4版[2015年末~2016年初めに4版増補版を刊行予定])……実務必携の中型コンメンタール。弁護士以外の実務家中心で執筆しているのが特徴(そのため実務の現状を肯定する記述がほとんどである)。第3版から実質6年ぶりの改訂となり、第3版増補版から168頁増量され、被害者参加や裁判員裁判を踏まえた記述になっている。条文の注釈に加えて刑事訴訟規則の注釈までついており、規則用の索引までついている。また、文献の引用を基本的に省略しており、文字ポイントも小さいため情報量は多い。試験頻出の条文をさほど詳しく解説しているわけではないものの、条文の文言ごとの実務上の解釈を、丁寧に解説している。そのため、刑事訴訟実務の授業や修習などで、実務の考え方を知りたいときに辞書的に用いるのであれば大いに力を発揮する。執筆陣も豪華で信頼性が高く、価格の安い新基本法コンメンタールが出た現在でも、実務家が第一に参照するのは本書であろう。受験生が使うには、価格の面で新基本法コンメンタールの方に分がある。弘文堂HPにてH22,23改正についての追補PDFをダウンロードできる。

三井誠ほか編『新基本法コンメンタール刑事訴訟法』日本評論社(2014年4月・第2版)……実務家の手による中型コンメンタール。編者の三井以外の執筆者は全て現役の法曹三者(裁判官、検察官、弁護士)であり、「裁判および検察の分野は、司法研修所の刑事裁判教官室、検察教官室が軸」となり構成されている。最高裁の刑事局課長も執筆者として重要条文を解説している。現実の解釈に直結しない学説対立についてはほとんど言及されていないが、法曹三者で意見が対立する箇所には【COLUMN】を挿入している(計15本。弁護人の立場からの提言14本+三井教授によるエッセイ的コラム1本)。『条解』に比べ、執筆者が全体的に若い。執筆者が明示されている点と値段の安さが魅力。本書においては『条解』とほぼ同じ記述の箇所が多々みられる。2版ではH25年までの法改正に対応。

後藤昭・白取祐司『新・コンメンタール刑事訴訟法』日本評論社(2013年9月・第2版)……TKCのインターネットコンメンタールのコンテンツを書籍化した、学生向けの中型コンメンタール。

田宮裕『注釈刑事訴訟法』有斐閣(1980年5月)……田宮先生が学生向けに書きおろした学習用コンメンタール。分厚い新書。今となっては流石に古い。刑事訴訟規則まで引用しているため、条文自体の注釈はさほど多くない。


【判例集・ケースブック】
井上正仁ほか編『刑事訴訟法判例百選』有斐閣(2011年3月・第9版)……他の百選に比べて実務家の執筆者が多い。全体的に穏当な解説がされており,解説まで読み込むべきである。

三井誠編『判例教材刑事訴訟法』東京大学出版会(2011年2月・第4版)……圧倒的掲載量。解説なし。

葛野尋之・中川孝博・渕野貴生編『判例学習・刑事訴訟法』法律文化社(2010年9月)……若手から中堅の研究者による判例教材。取り上げられた判例は101件。これらの判例について、主に論点と結論→事実の概要→法の解釈→法の適用→コメントという順で書かれている。法の解釈・法の適用・コメントは論文の際のあてはめに有効ではないかと思われる。

平良木登規男・椎橋隆幸・加藤克佳 編『判例講義 刑事訴訟法』悠々社(2012年5月)……


井上正仁・酒巻匡・大澤裕・川出敏裕・堀江慎司『ケースブック刑事訴訟法』有斐閣(2013年10月・第4版)……設問は難解なものが多いが、他のケースブックに比べれば使いやすい。独学には向かないので、授業やゼミでの利用を勧める。


加藤克佳ほか編『法科大学院ケースブック刑事訴訟法』日本評論社(2007年4月・第2版)

後藤昭・白取祐司『プロブレム・メソッド刑事訴訟法30講』日本評論社(2014年8月)……はしがきにもあるように、上記『法科大学院ケースブック刑事訴訟法』を発展させた事実上の後継シリーズ。独習向きではない。

高野隆『ケースブック刑事証拠法』現代人文社(2008年11月)……刑事弁護人による証拠法ケースブック。証拠法分野はこれ一冊で完璧。問題集というよりは判例集的な性格が強い。

渡辺咲子『判例講義 刑事訴訟法』信山社(2009年8月)……中立的な立場から重要判例を分析。一つ一つの判例につき、地裁から最高裁まで丁寧に判決の論理の変化を追うことで判例に対する理解を深めさせるというオーソドックスな形式をとっている。解説が詳しく、しかも講義調でとても分かりやすい。独学が可能な唯一のケースブックである。

長沼範良・大澤裕「判例講座・対話で学ぶ刑訴法判例」(法学教室連載・307号~連載打切り)……最近の判例を巡って学者と著名な実務家との対談形式で分析する。上の「酒巻連載」に登場するような近時の学説に対する実務からの評価・論点に関する参考文献一覧も充実しており、新判例と高水準の理論との勉強に有用。

川出敏裕「判例講座 刑事訴訟法」(警察学論集連載・2013年10月号~連載)……評価待ち。


【演習書】
古江賴隆『事例演習刑事訴訟法』有斐閣(☆2015年3月・第2版)……法学教室の連載の単行本化。3問をプラスし、学生が混乱するポイントについての解説を加えてあるほか、事例問題の解き方についても冒頭で書かれており、その意味でも参考になる。実務家(検察官)出身ではあるが、実務追認というわけではなく、近時の判例を踏まえているのはもちろんのこと、東大系学説の動向(それらの多くは基本書レベルを超えており、論文等を参照しなければならず、したがって初学者にとってはとっつきにくい印象である。)をも踏まえた内容となっており、かなり理論的に詰めてある。主要論点をあまねく網羅しているわけではないものの、概ね重要論点はカバーしており、論点勉強としてもなかなか使える。本書の価値が分かるようになれば,合格は近い。

井田良・田口守一・植村立郎・河村博『事例研究刑事法2』日本評論社(2010年9月)……刑訴の最重要論点について、現役の裁判官・検察官らを中心とした執筆陣がかなり自由度の高い解説をしている。設問の数は捜査5問・公判9問と少なめだが、各設問の末尾の関連問題まで潰せば広い範囲の論点をカバーできる。実務家による解説は非常に参考になるが、研究者陣営に人を得なかったため(例えば、田口による訴因の解説など)、決定版となるにはあと一歩足りない。

亀井源太郎『ロースクール演習刑事訴訟法』法学書院(2014年3月・第2版)……受験新報の巻末演習の単行本化。連載時は似た問題が本試験でも出るということで評判となっていた。設問はいずれも、近時の重要(裁)判例をモデルにした長文事例問題であり、解説もおおむね穏当で参考になるが、ほとんどの設問で事案が判例そのままとなっているため、実戦訓練にはやや物足りないだろう。

佐々木正輝・猪俣尚人『捜査法演習』立花書房(2008年4月)……検察官派遣教官による捜査法の演習書。憲法解釈や抽象的命題をそぎ落とし,問題をもっぱら刑訴法の条文解釈に局限することで,徹底的に捜査の便宜を重視した解釈論を展開する(同じ検察出身でありながら,古江・演習が主流学派に依拠してバランスの取れた解釈論を展開しているのとは対照的である。)。内容はかなりハイレベルだが,立場の偏りを意識して批判的に取り組めば相当なレベルアップが期待できる。とくに,本書で示されている判例の射程については,著者の見解をたたき台としてよく分析されたい。

廣瀬健二編『刑事公判法演習』立花書房(2013年5月)……全国の法科大学院に実務家教員として派遣されている著名な刑事裁判官らが一堂に会し,普通の教科書を読んでいるだけでは学習が難しい公判及び証拠の諸問題を解説している。下記の『実例刑事訴訟法』への橋渡し的な位置づけであり,学生向け参考書としては最高水準のもの。内容はかなり高度であり,またきわめて実務的であるが,図表を駆使することで非常に分かりやすくなっている。とくに訴因や証拠はきっちり押さえておきたい。各問の解説の末に参考判例と参考文献(実務家による文献が多い)が掲げられており参考になる。

長沼範良・酒巻匡・田中開・大澤裕・佐藤隆之『演習刑事訴訟法』有斐閣(2005年7月)……法学教室の連載の単行本化。一行問題の類が多く問題集というよりも論点集に近いが、主流学派の問題意識がよく分かるので、学生向けの参考書としてなかなか使い勝手がよい。ただし、解説者によって解説の書き方がバラバラであるため、若干の読みにくさはある。一時期増刷されなくなりプレミアがついていたが、1年余りの停止期間を経て再度増刷された。改訂の噂有り。

松尾浩也・岩瀬徹編『実例刑事訴訟法I・II・III』青林書院(2012年9月-11月)……定評ある演習書の最新版。執筆陣には著名な刑事裁判官が名を連ねる。内容はきわめて高度であるが,司法試験の種本と言われており,受験生にとっても一読の価値はある。

平野龍一・松尾浩也編『新実例刑事訴訟法I・II・III』青林書院(1998年7月)……上記実例刑訴法の旧版で旧司時代には種本と呼ばれていた。執筆者は法曹三者。法改正もあったがいまだに使える。

安冨潔『旧司法試験 論文本試験過去問 刑事訴訟法』辰巳法律研究所(2004年5月)……学者による旧司法試験過去問解説講義を書籍化。問題解説・受験生答案・答案の検討からなる。全34問。 絶版だったがオンデマンド版で復刊された。丁寧かつ論理的に問題を検討しており、解説は信頼がおけるものになっている。しかし、受験生答案に細かく注文をつけるスタイルは好みが分かれるだろう。なお、平成12年度の旧版に平成13-15年度の解説を加えただけなので、新判例に対応できていない部分もある。

新庄健二『司法試験論文過去問LIVE解説講義本 新庄健二刑訴法(新Professorシリーズ)』辰已法律研究所(2014年4月)……元東京高検検事・元司法研修所教官。辰已での新司法試験過去問解説講義を書籍化。平成18年~平成25年の問題を収録。

  • 最終更新:2015-10-02 23:08:44

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